【池田充雄】新型コロナウイルスの感染拡大で、社会全体がリモートワークに移行する中、取り残されつつあるのが情報弱者である高齢者たちだ。高齢者の社会活動を支援する市民活動団体「UDワーク」(つくば市大角豆)は、シニア支援型オンラインサロンの開設プロジェクトにクラウドファンディングを立ち上げ、26日までに第一目標金額の100万円を達成した。
オンラインサロン体験会を開催
外出自粛が求められ、地域活動などが軒並み中止に追い込まれるなか、特に独居高齢者を取り巻く環境は厳しさを増した。感染リスクを恐れて介護保険サービスなどの利用を控え、家族との行き来も極力減らし、孤立した生活が続いている。このままでは体力や認知機能の低下など、健康を損ねる懸念が大きい。UDワーク代表の前田亮一さん(43)は、スマートォンやタブレットなどの情報端末こそが、孤立しがちな独居高齢者の新しい命綱になると訴える。
「操作が難しい」「費用が高額では」という思い込みから、高齢者はこれらの機器を遠ざけがちだが、はじめの一歩を踏み出さない限り、情報弱者の状況は改善されないと考えている。
一番の難点が初期設定の大変さだ。販売店によるサービスもあるが、見ず知らずの人に教えてもらうのは高齢者にはストレスが大きく、やはり家族や身近な人の手助けが必要になる。家族が遠方にいるとか感染防止のため来られない場合は、普段から交流のあるデイサービス、ホームヘルパー、訪問リハビリ等のスタッフがサポートしたい。「今は災害時と同じ。制限ある中でやれることを考え、動ける人が動くことが重要」と前田さんは提言する。
アプリの設定まで済ませて高齢者に渡し、利用する手軽さや楽しさを味わってもらえれば、後は自然に操作にも親しめるようになるという。
心理的障壁を乗り越えるための多くの提案をするなか、UDワークでは、スマホ等を使ったオンラインサロンとはどういうもので、何ができるのかを知ってもらおうと、5月から体験会をスタートさせた。
その1つ「健康のイロハ」では、せせらぎ在宅クリニック(つくば市天久保)の清水亨医師が、コロナ禍における生活のポイントなどを指導した。さらに参加した近隣の高齢者や民生委員、見守り支援員、地域包括支援センター相談員らが、現在の生活の悩みを話し合うなどした。
使ってみて前向きな気持ちに
使用するアプリには、LINE(ライン)のグループビデオ通話機能を勧める。これは料金面からの理由もあるが、最大の理由はワンアクションで利用できる容易さだ。着信が来たときに画面上に現れる緑色のボタンを押すだけで、電話に出るのと同じ感覚でビデオ通話を始めることができる。ビデオ通話は、家族や友人と離れていても顔を見て会話することで、相手の存在を身近に感じられる。遠隔での安否確認の際にも、得られる情報量は電話より格段に増え、緊急時のサポートもしやすくなる。
料金的には、LINEモバイルのSIMカードの利用を勧める。月額600円から(税別)のプランがあり、LINEアプリによる音声通話とビデオ通話、テキストや音声、画像など各種データファイルの送受信が使い放題になる。
「自分にはとても使いこなせない」との思い込みが強かった高齢者も、一度体験すると意識が大きく変わるという。「孫の元気な姿を見られて自分も元気が出た」「いままでは必要性を感じなかったが、こういう使い方ができるなら始めてみたい」と前向きになれ、「特技を生かし、オンラインで子どもたちに英語を教えたい」などと新たな目標を見いだした人もいる。
使い方の工夫も生まれた。一例がリモートお散歩会だ。友人と同じ時間に外へ出て、各自が好きなコースを散歩しながら、オンラインで会話を楽しんだり、花などの写真を撮って見せ合ったりする。「やってみると意外に面白い。これなら一人だけの散歩でも楽しく続けられる」との感想が出たそうだ。
今後は行政・医療・介護等と手を組み、高齢者向けの体験会や個別サポートを充実させ、支援の輪を広げていく考え。また市民サークルや地域団体などに対しても、活動をオンラインで再開できるよう後押しをする。
クラウドファンディングは26日に第一目標金額の100万円を達成、ネクストゴールを120万円に設定して6月5日まで支援を受け付けている。支援金を貸し出し用タブレットの購入や、コンテンツ作成費用に充てると同時に、活動の意義を全国に訴え、ネットワークを広げる場としても役立てたいと前田さんはいう。
「新型コロナウイルスの怖さは、地域のコミュニティーを分断し、生きる力を弱めてしまう点にある。これまで参加してきた活動やつながりを新しい形で取り戻し、みんなで頑張ろうと励まし合って、この難局を乗り切っていけると信じている」(前田さん)