【コラム・及川ひろみ】コロナが社会を席巻(せっけん)している中ではありますが、そんな時こそ、ちょっと気分転換。4月中下旬、宍塚の里山には、こんもりと白い花に覆われたウワミズザクラが風に揺らぐ様子が、方々(ほうぼう)で見られます。
高さ10~20メートルにも及ぶ大木で、明るい林縁(りんえん)に多く見られるので、遠くからでもよくわかり、見応えがあります。花は写真のようにブラシ状です。桜のようには見えませんが、よく見ると5枚の花びらは小さな桜の花です。成長も極めて早いことから、里山の至る所で見ることができます。
ウワミズザクラはアンニンゴ(杏仁子)とも呼ばれ、若い花穂(かすい)を塩漬けにしたものをアンニンゴ漬けと言います。アンニンゴ漬けで有名なのは新潟県ですが、酒の肴(さかな)にすると、人から聞きました。
花の後、写真のような赤黒い実を付けます。この実の収穫は野鳥との競争です。特に、ムクドリが集団でやって来て実を漁り、あっという間に食べ尽くします。野鳥は美味しく実った時にやって来ますから、その直前に取るのが秘訣です。
黒い実は果実酒が最高
採った黒い実は果実酒が最高。アンニンゴ漬けもそうですが、この果実酒、いい香りがします。アンニンゴは、杏子(あんず)の種からつくるアンニン(杏仁)に似た香りがします。友人が数年前漬けたウワミズザクラのお酒を届けてくれました。「不老長寿の酒」と書いてあり、薬酒と言われています。
ウワミズザクラの名前の由来(ゆらい)は、写真のように樹皮に溝があることから、上溝から来ていると言われています。ウワミズザクラによく似たイヌザクラは、ウワミズザクラより少し遅く花を咲かせますが、それほど目立ちません。
白さがウワミズザクラのように際立たず、花穂が少し短く、花が少し緑がかっているからです。またウワミズザクラは、花が咲く小枝に葉がつくのに対して、イヌザクラは葉がまったくないことも見分けるポイントです。イヌザクラの樹皮は遠目にも白く見え、ウワミズザクラとは大違いです。
ウワミズザクラは秋に美しく赤や黄色に紅葉し、秋の里山を彩ります。間もなくウワミズザクラの花が見られます。思いがけない美しい里の花を、そして香りをお楽しみください。(宍塚の自然と歴史の会代表)