【相澤冬樹】茨城大学(水戸市文京)に昨年4月設置された県地域気候変動適応センター(横木裕宗センター長)がこのほど、研究成果を初めての報告書「茨城県における気候変動影響と適応策―水稲への影響」にまとめた。気候変動の影響は、稲作においては白濁した白未熟粒の増加など品質低下の形で全国的に顕在化しており、本県も例外ではない。コメの品質低下の回避に向け、中長期的な適応戦略を具体的に示した。
収量減ないが品質低下が顕在化
報告書は水稲への影響と適応策に焦点を絞った。最新の予測データや予想される気候の変化に適応し、持続的に生産を行うための考え方について、「一般向けのわかりやすい言葉で紹介した」という。執筆者には同大学、県と県農業総合センター関係者のほか、農研機構(つくば市)の研究者が名を連ねている。
報告書は気候変動への適応策の考え方と大学や県の動きを概説した上で、茨城県の水稲生産の現状と今後の影響予測について解説。今後極端な降水量が増加することや、気候のシミュレーションモデルとその補正方法によって、本県の気温上昇の予測値が日本全体と比べて高くなる可能性も示された。
実地の研究例として、JAつくば市谷田部「有機稲作研究部会」の取り組みが紹介された。土壌中の窒素量が白未熟粒発生率の低減に関与する傾向がみられ、平均地温が上昇すればするほど白未熟粒の合計割合が上昇する関係が見出されている。
県西・南部から優先対策を
シミュレーションでは、近い将来にかけ、温暖化により水稲の収量が大きく減る地域は予測されないものの、白未熟粒の発生率は県西・南部から高くなっていく予測値が得られた。高温耐性品種や発生低減技術の導入といった適応策をこれらの地域から優先的に進めていく必要があるという。白未熟粒の発生を抑えるためには、10年に0.5度のスピードで気温上昇する想定に基づき、高温耐性品種を開発・導入すべきという指標を示している。
たとえば、県内で栽培される水稲は、品種構成が 「コシヒカリ」に大きく偏っていることで、収穫作業が短期間に集中することが問題となっていた。作業の集中により適期の収穫が困難となり、刈り遅れによる品質の低下を招いた。高温下でも品質が安定する早生品種 「ふくまる」など県育成の新品種の導入をはじめ、移植日の変更、スマート農業化などを提案。これら具体的な適応策ごとの時間・コスト・効果を踏まえて、中長期的な適応戦略を立て、生産者・行政・研究者・企業等が連携した取り組みを進めるべきだとまとめた。
センター長を務める同大学大学院理工学研究科の横木裕宗教授は、「大学として気候変動の適応策に関する様々な研究分野の研究の蓄積があったため、全国の地域気候変動適応センターの中でもいち早く報告書を出すことができた。水稲生産への影響予測は、農業県の茨城にあって最も関心が高い情報の一つだ。報告書が、各生産者における持続的な農業の見通しや自治体による支援策の一助となれば」と話している。
同センターは、茨城大学が事業者を務め、気候変動の影響予測の情報提供や自治体の気候変動適応計画の策定支援などを行う。2018年に制定・施行された気候変動適応法に基づき、全国で初めて大学を事業者とする地域気候変動適応センターとして昨年4月1日に設置された。
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