【相澤冬樹】電子顕微鏡のシェアリングサービスというユニークな業態のベンチャー企業がつくばで動き出した。ANMIC(アンミック、井上佳寿恵社長)で、サービスは5月にも開始する。高額な電子顕微鏡を複数の企業でシェアしつつ、周辺機器を含む技術の刷新に人材育成を含めて対応する構えでいる。
会員制10社で5月スタート
ANMICは、物質・材料研究機構(NIMS)で電子顕微鏡の運用支援に当たっていた井上社長が2019年8月に設立した。電子顕微鏡は半導体、セラミックス、金属のような無機物からプラスチックや生物組織のような有機物まで、電子ビームを当てて材料の微細な構造を観察出来る装置。ナノ(10億分の1)メートルより1ケタ小さい原子レベルまで観察できる分解能を有する。
今回の装置は、日本電子の電子顕微鏡「JEM-F200」。透過型電子顕微鏡(TEM)の高性能機で、最高加速電圧は200キロボルト、分解能と機能の拡張性に優れる。高速なカメラがついており、加熱した時に金属や半導体などが溶けたり、構造が変化する様子をリアルタイム(1秒間に300フレーム)で観察できるという。
同市千現のつくば研究支援センターの1室を新たに借り、レンタルリース会社所有の電子顕微鏡を借り受け運用する。装置の高さが3.5メートルにもなるため、天井高などを改装、据え付けを4月から開始し、機器の調整を経て、5月半ばにもサービスを開始したい考えでいる。
井上社長によれば、NIMSでは最新の電子顕微鏡を使えたが、開発要素を含まない試験や企業からの委託分析ができないなど使途に制限があった。1台が数億円する電子顕微鏡は高額な装置だが、運用にはさらに付属の機器やソフトウエアを使いこなす必要があり、技術の刷新に追いついていかないと1、2年で陳腐化する。
ANMICは、F200に材料解析のための4D-STEMなどのオプションを付加する予定で、それらがどういう原理で、どういうことが出来るのか、実際に解析できた事例などを大学の専門家らに講演してもらったり、メーカーやエンジニアなどに実演や技術講習をしてもらうことにしている。同型機を持つ企業でもシェアリングに参加することで、新たなソフトウエア導入に際し、使い勝手の検証や技術の習得に役立てることもできる。
サービスの利用は会員制。利用目的でプランを分け、メーカーや研究機関が研究開発用途で利用する場合はベーシックプラン(年会費370万円)、受託解析会社などがビジネス用途で利用する場合はビジネスプラン(同780万円)の料金設定が示されている。研究法人を含む10社程度で1台をシェアし、会員は1日単位で予約して装置を利用する。
井上社長「つくばにこだわりたい」
常総市出身で、東京家政学院筑波女子短大(現・筑波学院大学)の秘書課程で学んだ井上社長は結婚・育児後の復職に際し、つくば市の産総研での秘書業務に就き、NIMSに転じた。その経験と研究者らの後押しにより、ANMIC設立に至ったが、「起業場所としてつくばにこだわりたかった」という。常に最先端装置の利用環境を提供するため、今回を1号機として、2号機以降の展開も構想、その視野もつくばに置いている。