【池田充雄】箱根への最後の壁となったのは、選手たちの本気度だった。6月下旬、全日本大学駅伝の関東地区予選会が開かれたが、その中に筑波大の名前はなかった。予選会の参加枠20校に入れなかったのだ。だが選手たちには悔しさを見せる様子もなかったという。弘山勉監督は「本気でやらないなら、自分が教える必要はない」と迫り、そこから選手たち自身による意識改革が始まった。
アクションを起こしたのは上迫彬岳主務。「5月からプレーイングマネージャーとして、少し離れたところからチームを見る中で、不足を感じる部分があった」という。選手一人ひとりから匿名で意見を募り、パワーポイント資料にまとめ、ミーティングで問題提起した。
「入学したときは本気で箱根を目指していた選手たちが、いつの間にか、国立であることを負ける言い訳にし始めていた。他の大学では自分たちより実績ある選手が、より恵まれた環境で、より一生懸命練習している。それに自分たちは本当に勝てるのか。箱根に出るためにどれだけのことを犠牲にし、どれだけ苦しい思いをする覚悟があるのか。その部分を確認したかった」

100%で打ち込むチームへ
大土手嵩主将は「上迫が中心になって動いてくれて、それぞれの競技に向き合う理由や、練習に取り組む意識など、全員の考えに触れられた。考えが甘かったと気付かされた」と感謝の言葉を述べる。
トラック種目を捨てて箱根一本に絞るのか、学業や就職に重きを置くのか。そうした自問自答の末、結果的に駅伝から離れる部員もいたが、チームの結束はかえって強まった。監督や主要メンバーによるミーティングを定期的に行い、強化方針や練習の意図、流れなどを話し合うほか、チーム内でも互いに改善点を指摘し合うなど、横の風通しも良くなった。
「今の3年は各自が責任を持って、能動的にチームを引っ張っていこうとする者が増えた。データ班やエントリー班、SNS班など、それぞれが自分のできる仕事を見つけて動いてくれる。やっとこういう体制が作れた」と、前年の駅伝主将だった川瀬宙夢は話す。
成功体験が与えた心身の充実
生まれ変わったチームは、夏合宿を経て着実に成長を重ね、10月の予選会を6位という予想以上の成績で突破。11月の1万メートル記録会でも、各選手がこぞって自己新を更新した。12月10日にはエントリーメンバーが確定し、本選まで残り3週間と迫る中、最後の追い込みをかける。
「夏合宿で順調に強くなっている感覚があり、それが予選会で確信に変わった。自分たちのやってきたことは間違っていなかったと、今は自信を持って練習に取り組めている。あとはけがや体調不良を出さないよう、細かいところを詰めるだけ」と大土手主将。
「予選会を勝ち抜いたことで、選手には大きな目標を成し遂げたという達成感が生まれている。この充実した気持ちの中でいかに本選を目指せるかがカギ。競技レベルに対し、体だけでなく心が追いつくことが肝心で、それにより調子を上げ、戦うパフォーマンスを発揮できる」と弘山監督。
目標は、翌年のシード権を獲得できる10位以内。復活から新しい伝統の創造へと、夢舞台での挑戦は続く。(おわり)