火曜日, 5月 20, 2025
ホームつくば大学生のための「家出マニュアル」プロジェクト 筑波大生が企画、5月noteに公開へ

大学生のための「家出マニュアル」プロジェクト 筑波大生が企画、5月noteに公開へ

【田中めぐみ】虐待サバイバーの体験談を募集し、大学生のための「家出マニュアル」を作るプロジェクトを進めている学生がいる。筑波大学人間学群で社会福祉について学ぶ3年生の山口和紀さん(20)。体験談は5月にウェブサービスnoteに有料公開予定で、売り上げは執筆者に還元するという。

家出は虐待からの自主避難

山口さんは大学1年の時に、親からの虐待を生き延びたサバイバーたちが書いた手紙を収めた本『日本一醜い親への手紙 そんな親なら捨てちゃえば?』(Create Media編)を読んだ。同世代が手紙を寄せていることにショックを受け、ツイッターで本の感想をつぶやいたところ、この本の企画をしたライターの今一生(こんいっしょう)さんから返事をもらい、児童虐待防止をテーマとした講演会を企画した。昨年5月の2日間、コワーキングスペース「Tsukuba Place Lab」(つくば市天久保)に今さんを招いて「子ども虐待防止講演会」を開催した。

講演会で参加者の話に耳を傾ける今さん=昨年5月、コワーキングスペース「Tsukuba Place Lab」(つくば市天久保)

講演会には筑波大学の学生らを中心に2日間でのべ41人が参加。虐待問題について様々な議論が行われ、実際に虐待を受け、生きるために家出をした体験を語った人もいた。家出しなかったら死んでいたという話を聞き、山口さんはそれまでの価値観がひっくり返された気がしたという。「家出」という言葉には「してはいけないこと」「悪いこと」というイメージがあったが、体験者の話を直接聞き、「家出」は被虐待者の自主避難であることを知ったと話す。

また今年3月、ある地方大学に通う大学生が自らの虐待体験をつづって、インターネットにアップした記事を目にした。この大学生も「家出」することによって生き延びていた。2人の壮絶な体験から、「家出」がなければ死んでいたかもしれないサバイバーの実態を知り、山口さんは何かをしなければならないという気持ちにさせられたという。

5人の家出体験記を募集

被虐待者の家出には、ある種の技術が必要になるが、社会的に家出が推奨されることは少なく、支援する団体も多くない。具体的なやり方を教えてくれるところが無いため、家出成功者の体験談をモデルケースとして参考にするしかない。

そこで山口さんは、実際に家出に成功した大学生の体験談を集めた「家出マニュアル」を作ろうとプロジェクトを立ち上げた。目標は100人の体験談を集めることだが、まずはツイッターで呼びかけ5人を募集したという。

家出の定義は、「生活拠点を親元以外に移し、自分一人で生活を成り立たせていること」。親に内緒にしているかどうかは厳密には問わず、親に反対されている中強行する場合も家出に含める。虐待親の元で育った人、家出の経験がある人、2019年4月時点で大学生または大学院生であることを条件として募集したところ、すぐに5人の枠が埋まった。体験記を寄せてくれた5人には原稿料を渡したいと山口さんが自腹を切った。

少ない大学生への支援

なぜ大学生を対象にしたか、山口さんは「大学生は10代と20代、未成年と成年の間だから」という。18歳未満は児童相談所など公的支援が受けられるが、18、19歳への支援は薄い。また、20歳になれば賃貸契約などの契約行為に親の同意がいらなくなり、自分で決められることも多いが、未成年の内は親の同意が必要だ。女性の場合はDV(ドメスティック・バイオレンス)シェルターや支援を行うNPOなどもあるが、地方には少ないという。また、男性の場合の支援は必ず就労を前提としており、学生への支援は無いに等しいと話す。

「家出マニュアル」を作る目的は、一つは当事者のため、もう一つは「大学生の虐待」という問題に社会の目を向けることだと山口さん。このプロジェクトが問題提起とし、支援を増やしていきたいという。山口さんの専門は社会福祉で、自分の体験談を語ることは劣等感や屈辱感を低減することにつながり、癒しにもなることを学んだそうだ。「このプロジェクトによって教会のように困っている人たちが集まれる場所を作りたい。困っている人たちがつながり、助け合うコミュニティを作りたい」と目標を語った。

➡「家出マニュアルプロジェクト」のnoteページ

執筆者を増やすための寄付支援もできる

➡NEWSつくばが取材活動を継続するためには皆様のご支援が必要です。NEWSつくばの賛助会員になって活動を支援してください。詳しくはこちら

スポンサー
一誠商事
tlc
sekisho




spot_img

最近のコメント

最新記事

2つのユニバーサルデザイン《デザインを考える》20

【コラム・三橋俊雄】ユニバーサルデザインとは、年齢や性別、障がいの有無などに関わらず、できるだけ多くの人が利用しやすいように道具や環境をデザインすることですが、一方で、障がい者の多様な声に耳を傾け、彼らの個別ニーズに対応したデザインを行うことも必要です。今回は、京都で出会った「歩くことができないKさん」と「手首が回らないAさん」のためのデザインについてご紹介します。 Kさんのための「空飛ぶ座布団」 Kさんは脳性麻痺で、四肢のうち自由に動かせるのは左手のみ。バーセルインデックス(食事、移乗、トイレ動作、入浴、歩行など10項目の日常生活動作の能力を点数化する評価方法)では40点以下という、生活の大部分が要介護の状態で、毎日朝晩と隔日の昼間にヘルパーのサービスを受けています。屋外での移動は電動車椅子ですが、その車椅子に乗るまでの準備工程も、ほとんどをヘルパーに頼らなければなりません。また、室内での姿勢は「アヒル座り(内股座り)」しかできません。 このようなKさんに対し、自力で室内の移動ができるための福祉用具デザインを試みました。彼の移動能力を調べると、乗り移ることができる高さは19センチ、降りる時に11センチを超えると怖い、乗った時の姿勢のズレを防止する凸部が必要、乗り降りのためのブレーキが必要など、試作モデルでの使用実験を繰り返し、写真(上)のような「空飛ぶ座布団」のデザインになりました。 Kさんからは「おかげで、ヘルパーなしでも1人で乗り降りができ、うろうろすることができるようになった」とのことで、Kさんの望みをひとつ叶(かな)えられたと思いました。 Aさんのための食事補助具 脳性麻痺のAさんは、車イスで移動したり、杖を用いれば歩行も可能な学生でしたが、左手は筋肉が硬直し、手首が外側を向いたまま、手のひらを返すことができませんでした。 そのAさんの「両手を使ってみそ汁を飲みたい」という要望に応えるため、左手でお椀(わん)を口に運ぶことができる食事補助具のデザインに挑戦しました。 上肢の可動状態を把握し、左掌が下向きのままミソ汁椀を口に運ぶことができるモデルを、①お椀の持ち上げやすさ、②お椀の口元への近づけやすさ、③握りやすさ、④お椀を置いたときの安定性、⑤総合的な使いやすさなどの視点から検討し、写真(下)の補助具にたどり着きました。 健常者にとっては使いやすくても、障がい者にとっては使えなかったり、使いにくかったりする道具や環境がたくさんあります。障がい者のためのデザインがもっと増えてこそ、真のユニバーサルデザインの社会が実現するのではないでしょうか。(ソーシャルデザイナー)

学校給食に異物混入 つくば市の中学校

つくば市は19日、市内の中学校で16日に出された学校給食に異物が混入していたと発表した。教員が食べた鶏肉のトマト煮にホチキスの針が混入していた。 市教育局健康教育課によると、16日午後0時50分ごろ、市立中学校の職員室で、教員が鶏肉のトマト煮を食べた際、口の中に違和感を感じ、異物を吐き出したところ、長さ1センチくらいのホチキスの針一つが混入していた。教員にけがなどはないという。発見時、生徒のほとんどが給食を食べ終わっていた。 鶏肉のトマト煮は同日、つくばほがらか給食センター谷田部で調理され、幼稚園4園、小学校6校、中学校3校の3317人に提供された。異物が混入していた給食は職員室で配膳されたものだという。同校や他校などから、ほかに異物混入の報告はない。 発見後、同校のほか、給食センター、食材納入業者それぞれ、異物混入の経緯などを調査したが、現時点で混入経路は不明。 同給食センターは16日、保護者にお詫びの通知を出した。

群馬に5連敗 茨城アストロプラネッツ

プロ野球独立リーグ・ルートインBCリーグの茨城アストロプラネッツは18日、土浦市川口のJ:COMスタジアム土浦で群馬ダイヤモンドペガサスと戦い、1-4で敗れた。今季初の土浦開催となった。茨城の通算成績は5勝10敗で東地区3位。今季の群馬戦の戦績は0勝5敗となった。 【ルートインBCリーグ2025公式戦】(5月18日、J:COMスタジアム土浦)茨城アストロプラネッツ-群馬ダイヤモンドペガサス群馬 000001210 4茨城 001000000 1 試合は3回に茨城が先制。先頭の9番・原田京雅と続く1番・山本仁が右前へ連続安打、2番・高田龍の送りバントで1死一・二塁とすると、3番・原海聖が右翼へ犠牲フライを放ち1点を奪った。「ノースリーだったが四球を狙わず振っていけと指示し、しっかりと外野まで運んでくれた」と巽真吾監督。「打ったのはちょっと浮いたチェンジアップ。相手投手は入れてくると思い、甘い球を見逃さずとフルスイングすることを意識した」と原。 投手は金韓根が先発し、5回83球を投げて無失点。立ち上がりは低めの球を見極められ走者を出したが、途中から組み立てを変え、高めのボールからストライクになる変化球でカウントをかせぎ、後半はテンポの良い投球でフライアウトに打ち取った。5回表には内野安打と四球で1死一・二塁のピンチを作るが、相手の送りバントを自ら処理し三塁封殺に成功。「捕手は一塁を指示したが自分の判断で三塁に投げた。ここで走者を残すと単打でも1点を許すことになる。絶対に三塁を踏ませたくなかった」との振り返り。 6回以降は4人の投手が1イニングずつ投げたが、2番手の三浦遼大は替わりばなの初球で本塁打を浴び、3人目の川端啓新は四球と送りバントの一塁悪送球で無死一・二塁とされ、単打と内野ゴロで2点を失った。4人目の斉藤淳斗は3安打に野手のファンブルが重なり1失点。5人目の太田大和は1安打2四球で1死満塁のピンチを迎えたものの、6-4-3の併殺で切り抜けた。 攻撃でも茨城は小さなミスが目立った。1回は山本が四球から足を生かして一死三塁の好機をつくり、原の右飛にタッチアップを狙ったが、ポテンヒットになったことで本塁突入に失敗。5回には四球で出塁した山本が牽制球から挟殺に遭い、次打者の高田龍が右前打を放ったため、ここで山本が生きていればと惜しまれる結果になった。 9回には6番・草場悠が四球を選び、8番・三池裕翔が中前打と盗塁で2死二・三塁、一発が出れば同点という見せ場を作った。打席に立った原田はバットを折るアクシデントもありながらフルカウントまで粘ったが、最後は遊飛に倒れ、「ボールを見極めることはできたが、投手の気迫に負けて外野へ運ぶことができなかった」との無念の敗戦となった。 「群馬戦はここ数試合接戦が続いているが、四球と失策が重なるとか、チャンスであと1本が出ないなど、いずれも勝てそうなゲームを少しの差で負けている。投手と野手がかみ合う試合をつくり、チームが一体感を持って勝利を目指したい」と巽監督はリベンジを誓う。(池田充雄)

難民支える自治体ネットワークに加入 つくば市 全国19番目

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が進める国際キャンペーン「難民を支える自治体ネットワーク」に18日、つくば市が加入した。自治体が難民への連帯と貢献を表明することを通して難民支援の輪を広げていく取り組みで、国内では東京都、広島市、札幌市などに続いて19番目、北関東の自治体では初の加入となる。世界では59カ国309自治体目。 同日、つくば駅前のつくばセンター広場などで開かれた科学と国際交流のイベント「つくばフェスティバル2025」会場で同ネットワークの加入署名式が催され、五十嵐立青つくば市長と桒原(くわはら)妙子UNHCR駐日首席副代表代行が同ネットワークの賛同表明文に署名した。 五十嵐市長は「世界に難民は1億2000万人いる。日本の人口と同じ。(難民の)状況は厳しくなっている。ウクライナ、ガザ、世界各地で大変なことが起きていて、奪われてはいけない命が奪われている。つくばにも避難してこられたり移ってこられた方がいる。だからこそ我々自治体は、連帯し国際社会の一員として支えていく責務がある。我々に何ができるか、まずは知ること。その先に何ができるか、皆さんと共に歩みを進めたい」と話した。「分断が進んでいる社会で、自治体としてメッセージを出していこうという意思表示」だという。 桒原代表代行は「つくば市が北関東で初めて参加してくださることは本当に心強い。つくば市はSDGs(国連の持続可能な開発目標)など地球規模の課題に積極的に取り組んでいる全国でも先進的な自治体。つくば市ならではの柔軟で創造的な取り組みを通じて、難民支援の輪が地域から自分ごととして広がっていくことに期待したい」と述べた。 2023年10月、フィリッポ・グランディ国連難民高等弁務官が、ウクライナから避難してきた学生や留学生などと意見交換するため筑波大学やつくば市役所を訪れたことがきっかけになった(23年10月20日付)。つくば市がSDGsに積極的に取り組んでいたり、不平等や格差是正に取り組むOECDの先進的市長(チャンピオンメイヤー)に選ばれていることなどから、UNHCR駐日事務所が同市に自治体ネットワークへの加入を呼び掛けた。 加入にあたって同市は「いろいろな機会をとらえてまず知っていただくことが一歩」(五十嵐市長)だとして、17、18日の2日間つくば駅周辺で開かれたつくばフェスティバルで、UNHCRの難民支援の仕事などを紹介するブーズを出展した。市中央図書館では1日から30日まで、UNHCR駐日事務所の協力で平和、共生、多様性などに関する同館所蔵図書を紹介する「難民のものがたり展」を開催している。 つくば市では現在、147の国と地域出身の外国人1万4251人が暮らしている。そのうち難民や戦争などからの避難者が何人いるかは不明。 他の加入自治体の取り組みとしては、UNHCR駐日事務所と連携して、難民問題を知るための独自イベントの開催や学校などでの出張授業、難民支援のための寄付の呼び掛け、大学の奨学金制度の導入や企業の雇用支援、母国を離れ難民キャンプなどで生活している難民を第三国が受け入れる「第三国定住」などを通じた難民の受け入れなどが行われているという。(鈴木宏子)