火曜日, 9月 16, 2025
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還暦の科学技術週間 青少年向けにシフト つくばで一般公開

【相沢冬樹】「発明の日」の18日がめぐってくるとつくばは「科学技術週間」に入り、教育・研究機関はこの週末に一般公開のピークを迎える。今年は60回目の節目の年。つくば地区ではかつて、民間研究所を含め50以上の機関が一斉参加し、意匠を凝らした展示で華やかさを競ったが、平成の間に研究所の統合や規模の縮小などあって、今回の公開機関数は28となった。内容的にも企業向けに研究成果を発表する形式は姿を消し、青少年向けのプログラムを用意して研究者と交流するスタイルが目立ってきた。

「元素のチカラ」見せる黒い炎…物材機構

はっきり「若者向け」を打ち出したのは、物質・材料研究機構(NIMS)。「材料科学」はわが国の科学・経済のけん引役ながら、少子化や若者の理科離れの中、優秀な人材確保が難しくなっており、危機感を募らせている事情が背景にある。21日の一般公開では、子供たち向けの体験プログラムとは別に、高校生や大学生向けのプログラムを用意した。

折から2019年は元素周期表ができて150周年を迎えることから、「元素のチカラ」をテーマに講演や講座を開設する。特別講演は花火師の山崎茂男さんによる「花火“奇跡の3秒”を生む元素の力」、体験講座では食塩とメチルアルコールから「黒い炎」を作り出して、その元素の謎解きをする。公開は21日午前10時~午後4時、NIMS千現・並木・桜地区同時開催となる。

https://www.nims.go.jp/openhouse/

高校生・大学生限定で…国立環境研

今回から対象を高校生・大学生に限定し、一般公開を取りやめたのは国立環境研究所。20日午後1時から開催の「春の環境講座-地球のおくのほうまで見てみよう」は、環境問題について少人数で研究者と語り合う3つのイベントに、高校生・大学生を 50 人限定で募集した。職員採用に関する相談コーナーまで設けた。

http://www.nies.go.jp/whatsnew/20190326/20190326.html

キッズ・ユニバーシティ…筑波大学

筑波大学は、その名も「キッズ・ユニバーシティ」(子供大学)と銘打って、児童・生徒向けのプログラムを組んだ。20日午前9時~午後5時、最新のスーパーコンピューターの見学会やホタル飼育、科学遊びラボなどを設けるほか、高校生以上対象に知能機能システム専攻公開、地上ロケットエンジン燃焼試験などを行う。限定公開の大学地底探検ツアーも各回25人で4回行われる。

http://www.tsukuba.ac.jp/event/e201903181000.html

筑波大学の最新スーパーコンピューター「Cygnus(シグナス)」

このほかの主な公開は次のとおり。

国立公文書館つくば分館=20日までの午前9時15分~午後5時、企画展「明治を支えた情報通信」 新旧憲法、終戦の詔書(しょうしょ)などの展示。

Belle II 測定器=高エネルギー加速器研究機構

高エネルギー加速器研究機構=20日午前9時30分~午後4時30分、施設見学ツアー Belle II(ベルツー)測定器&フォトンファクトリー、サイエンスカフェなど。

https://www.kek.jp/ja/newsroom/2019/04/02/1600/

建築研究所=21日午前9時~午後4時、実大構造物実験棟など研究施設のツアー見学(予約制、電話029-864-2151)ほかドローンシミュレーターによる操縦体験など。

国土技術政策総合研究所・土木研究所=19日午前9時~午後4時、試験走路、京都・桂川の河川模型などの実験施設見学、VRで建築現場体験など。

NTTアクセスサービスシステム研究所=17日午前9時50分・11時50分・午後2時20分・4時20分の4回に分け光ファイバーを使った通信技術をツアー形式で紹介。

防災科学技術研究所=21日午前10時~午後4時、「生きる、を支える科学技術」をテーマに地震ザブトンによる揺れ体験、ゲリラ豪雨体験、ペットボトルで地震計を作るコーナーなど「ぼうさいミュージアム2019」の開催。

http://www.bosai.go.jp/event/2019/openhouse/index.html

国立科学博物館筑波研究施設・筑波実験植物園=21日午前10時~午後4時、「科博オープンラボ2019」。ツアー形式で標本室をめぐる見学会。動物研究部、植物研究部で参加型の特別企画など。21日は筑波実験植物園入園料が無料。

http://www.kahaku.go.jp/event/2019/04open_labo/

筑波技術大学=19日午後1時~、視覚障害に配慮した学習環境と支援機器の体験。

つくばエキスポセンター=21日まで入館料200円(子供100円)割引。20日と21日にサインスショー、宇宙アサガオの種プレゼントなど。21日は江戸川学園取手小、塚原佳那子さんの一日館長。

日本自動車研究所=20日午前10時~午後4時、「のぞいてみよう! クルマの研究所」。真冬の試験環境体験や水素・電気で走るクルマに同乗体験。

JAXA筑波宇宙センター=19日まで午前9時30分~午後5時、筑波宇宙センタークロスワードパズル(プレゼント付き)、超小型三軸姿勢制御モジュール紹介(実演付き)など。

産総研・地質標本館=16日~7月7日開催の特別展「宇宙(そら)から地質(ジオ)―衛星でみる地質」関連特別講演会=20日午後2時~4時 2講演を予定。入場無料。

産業技術総合研究所つくばセンター=20日午前9時30分~午後5時、ミニトーク「トンボの不思議」、研究室見学「両生類ふれあいツアー」ほか、いずれも予約制。

https://www.aist.go.jp/sst/ja/event/sq20190420/index.html

気象研究所・高層気象台・気象測器検定試験センター=17日午前10時~午後4時、気象研では講演会「異常気象と地球温暖化」など、高層気象台ではジェット気流の発見に関わる展示など、試験センターでは気象測器の展示・説明。

国土地理院・地図と測量の科学館=18日午前10時~と午後4時~、測量用航空機「くにかぜ」内部公開。

国際協力機構JICAつくば=20日午前10時~午後4時、展示「アフリカを知ろう!」、高校生国際協力実体験プログラム成果発表など。

農研機構=19日午前9時~午後4時、⾷と農の科学館でもみすり体験や植物⼯場で栽培されたトマトの試⾷など、農業環境インベントリー展示館でミニ農村⾒学ツアーなど。

森林総合研究所=18日午前10時~午後4時、企画展示「サクラを観る・守る・利用する」、樹木園の案内(研究者のガイド付き)など。

国際農林水産業研究センター=19、20日の午前10時~午後4時、講演「地球温暖化に負けないトマトを作る~遺伝資源を用いた耐暑性研究」(19日)、ハイビスカスなどの苗木の配布(先着順)など。

詳しくは、2019年度イベント総合ガイドのダウンロードページへ。

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TX県内延伸 3期目知事の作戦《吾妻カガミ》210

【コラム・坂本栄】9月7日の県知事選挙で大井川和彦氏が当選し、大井川県政は3期目に入りました。私はこの欄でTX(つくばエクスプレス)の茨城空港延伸(常磐線土浦駅経由)の必要性を度々取り上げてきましたが、空港延伸につながる土浦延伸が国の鉄道敷設計画にセットされるよう、3期目の知事が政治力を発揮することを期待しています。 主体性に欠ける運行会社 今夏開業20年を迎えたTXを運行しているのは首都圏新都市鉄道(渡辺良社長)です。7月31日に開かれた「TX長期ビジョン2050」発表記者会見(同日付記事参照)で土浦延伸について質問された渡辺社長は、県の延伸構想についてはコメントする立場にないと、その是非判断を避けました。沿線自治体を主な株主とする同社には鉄道敷設といった大型投資を決定する力がないようです。 これは土浦延伸に限ったことではありません。茨城、千葉、埼玉県、東京都の沿線自治体で構成される期成同盟会から要望が出ている東京駅延伸についても、①その経済・社会効果については外部に委託して調査してもらう②仮に東京駅延伸が決まっても自社が整備主体・運行主体になるのかどうか分からない―と、他人事のようなコメントでした。 同社の株主は、茨城県(18.05%)、東京都(17.65%)、千葉県(7.06%)、足立区(7.06%)、つくば市(6.68%)、埼玉県(5.88%)、台東区(5.3%)、柏市(5.3%)、流山市(5.3%)、千代田区(2.65%)が上位10ですから、主要株主に対しいろいろな配慮があるようです。 2028年が決着の正念場 土浦延伸に向けた大井川知事の作戦は明確です。新都市鉄道には筆頭株主として働きかけるにとどめ、鉄道政策を所管する国土交通省の交通政策審議会が「東京駅延伸+東京湾延伸」を決める場で、土浦延伸も決めてもらう同時決着のアプローチです。これであれば土浦延伸の費用も沿線自治体に分担してもらえるので、茨城県の負担は少なくて済みます。 この双方向延伸を実現させるには高度な政治工作が必要です。一つは、東京駅延伸で熱くなっているTX沿線自治体と国に土浦延伸の利点も理解してもらうこと。もう一つは、当初計画では守谷止まりだったTXをつくばまで強引に引っ張ってきた竹内藤男知事(就任期間は1975~1993)が「さらに延ばす場合、その費用は茨城県で持つ」旨の念書を1都2県の知事に渡しているため(つくば延伸を渋々認めさせる策)、これを白紙に戻す必要があります。 こういった工作が不調に終わった場合、茨城単独では負担が重すぎる土浦延伸は机上の構想で終わるでしょう。TX東京駅・湾岸延伸を決める国の交通政策審は2028年に開かれる予定と聞いていますから、大井川知事の3期目後半が土浦延伸決着の正念場になります。 改めて空港延伸も議論 面白いのは、茨城空港を利用する観光客と仕事客が今後大きく増加するとのリポート「茨城空港将来ビジョンー首都圏第3空港を目指して」を県が7月に発表、同空港の機能充実や施設拡大の必要性を打ち出したことです。 このリポートには「県が推進するつくばエクスプレス県内延伸構想に関しては、土浦延伸実現後、空港を取り巻く総合的な状況の変化などを見極めた上で、改めて茨城空港延伸について議論することにしていることから、同構想の進捗を注視しながら、将来における空港アクセスの充実について検討していく」と書かれています。 仮にTX土浦延伸が国交省の諮問機関で決まっても、完成はそれから10年ぐらい先になります。さらに茨城空港まで延伸するとしても、20年ぐらい先になります。大井川知事が何期やるか分かりませんが、故・竹内知事の5期途中辞職(1993年)からTX開業(2005年)まで12年かかったことを思い起こすと、交通インフラ整備とはそういった時間軸で進むものです。(経済ジャーナリスト) TX延伸関係コラム 青字部を押すと読めます。▽203=知事の県政報告(3月3日掲載)▽162=空港延伸も議論(23年7月18日掲載)▽155=土浦延伸を決定(23年4月17日掲載)▽147=延伸先に4候補(22年12月19日掲載)▽136=狭視野つくば市(22年7月4日掲載)

つくばエリアを広げても県立高は不足《竹林亭日乗》32

【コラム・片岡英明】つくばの高校問題は先の茨城県知事選挙でも争点になった。受験生・保護者にとって、つくば市の県立高不足は明白なのだが、県教育委員会は独自の考え方で対応しているため、議論はかみ合わず、私たちの声が届いていない。 県は2024年10月、「県立高等学校の今後の募集学級数・募集定員の見込みを試算」で2つの試算を発表。試算2で「中学校卒業者の増加がみられるつくばエリアの状況」として、つくばエリアの生徒増を取り上げた。今回はこのエリアの県立高は「足りているか否か」について対話を深めるため、県の試算2について考えてみたい。 過不足を論じる3つのアプローチ つくばの県立高の過不足を論じる3つの方法としては、以下の3つのアプローチがある。 ①収容率法(私たちの方法):県立高の県平均収容率68.2%を目標に、2024年の不足学級数と2030年までの不足学級数を算出。 ②入学見込み法(県の2019年改革プランや2024年試算の方法):2024年時点での不足は考えず、今後の生徒増減に注目し、これに各高校の市町村からの入学率を掛け、2024~2030年の入学見込み数を算出。当然、県立高が少ないつくばエリア地元高校への入学率は低くなる。 ③エリア拡大法(試算2の方法):2024年時点での不足は考えず、つくばエリアに土浦・牛久・下妻の3市を加え、拡大つくばエリアを設定。その入学見込みを算出して、高校定員の過不足を論じる。 これらで計算すると、①現在14学級不足+2030年までに7学級不足⇒計21学級不足、②現在は検討せず+2030年までに3学級不足⇒計3学級不足、③現在は検討せず+拡大エリア定員内に収まる⇒定員増必要なし-となる。 これらの方法による結論は大きく異なる。特に、③はつくばエリアの現在の14学級不足を考慮しないだけでなく、生徒が減少する土浦・牛久・下妻を拡大つくばエリアに加えて生徒増を圧縮。これに低い入学率を掛け、強引に定員増必要なしの結論に導いている。 「拡大つくば」でも14学級不足 そこで議論がかみ合うよう、試算2の拡大つくばエリアを①の収容率法で分析した。2024年のつくばエリアの収容率は県平均の68.2%に対し54.7%と低いが、土浦・牛久・下妻を加えた拡大つくばエリアでは60.0%に向上する。しかし、68.2%の県平均以下で学級不足であり、不足数は2024年つくばエリアと同じ14学級になる。 これは土浦・牛久・下妻3市の合計平均の収容率が68.5%と県平均に近いためで、つくばエリアと拡大つくばエリアの県平均への必要学級数は変わらない。さらに、定員の多い土浦を除いた第7エリアでも新たに2~3学級の学級不足が発生する。 ③の発想は、エリアを基本に募集定員を考えてきた改革プランのバランスを崩したようだ。県は、「エリアを基本に生徒数に応じた定員」を原則にして、つくばエリアの現状に向き合い、受験生・保護者の要望に応えてほしい。(元高校教師、つくば市の小中学生の高校進学を考える会代表)

ウッディキャロット&モモコハウス《ご飯は世界を救う》69

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「透明人間じゃない」学校での付き添い 母たちによるトークイベント

20日 つくば 障害のある子どもが学校に通うとき、保護者に「付き添い」が求められることがある。役割は、学校生活に必要な介助。しかし実際には「待つだけ」の時間が長く、孤独や虚しさに押しつぶされることもあるという。 つくば市で20日、学校での「付き添い」を経験した保護者らによるトークイベント「『透明人間』になった私たちのお話」(つくば自立生活センターほにゃら主催)が開かれる。登壇するのは、写真集「透明人間 Invisible Mom(インビジブル・マム」を出版した都内在住の写真家、山本美里さん、つくば市内の小学校に通う娘を育てる堀玲さん、医療的ケア児の親の会「かけはしねっと」代表理事で市内に住む根本希美子さん。3人それぞれが障害のある子の保護者として孤独や葛藤に向き合ってきた。 教室の後ろで座り続けた 「学校での役目は、子どものトイレと階段の上り下り、それから物が落ちた時に拾うこと。それ以外は、教室の後ろで座っているだけだった」と堀さんは言う。 堀さんの長女は市内の学校に通う小学5年生。脳性まひによる障害から日常生活に車いすが欠かせない。幼稚園では、障害児を支える「加配」の先生が付き、堀さんは送り迎えをするだけだった。多くの友達に恵まれ、多目的トイレを1人で利用できるようになるなど、日々できることが増えていく娘の姿に「親の方が励まされた」と振り返る。だからこそ、「小学校も、地域の学校で」との思いは強かった。 しかし、入学要件として求められたのは「保護者による付き添い」だった。学校には「加配」に代わる「特別支援教育支援員」が各学校に配置されるが、当時、入学予定の学校では支援学級の児童が優先されていた。自身でノートをとったり、友人とコミュニケーションをとることができる娘は、普通学級で学んだため支援員の対象から外れた。「付き添い」は堀さんにとって辛い日々の始まりだった。6、7時間、会話を交わすこともなく、朝から下校時間まで椅子に座り続けた。 「体はガチガチに硬くなるし、それ以上に心が沈んでいく。周りに迷惑をかけないよう気を張っていたけれど、何もしないまま時間だけが過ぎていく虚しさに、どうしても耐えられなくなった。ただただ悲しかった」と話す。 学校と保護者が話し合える関係を 娘が2年生に進級したある日の授業中、無意識に涙が流れ出し止まらなくなった。3年生になるころには重度のうつ病と診断され、「すぐに学校に行くのをやめて夫に代わってもらい、休んでください」と医師から告げられた。 「明日こそ頑張ろうと思うと夜眠れなくなり、朝が来ると、学校に行くのが嫌で嫌でたまらなかった。起き上がることもできなくなった。親の私が登校拒否になってしまった」 市に掛け合い、学校の体制も変化し状況が好転する。学校がこれまでの対応を謝罪し、支援員の増員を決定。さらに階段に昇降機がついたり、トイレが多目的用に改修されたりし、付き添い時間も徐々に減っていき、現在は登下校の送迎のみとなっている。 「子どもが幸せに学校で過ごせるように、学校が、保護者と一緒に考える場所であってほしい。『これに困ってるんですが、どうすればできますかね?』と、遠慮せず話し合える関係を築いていきたい」と堀さんは言う。 求められた「存在を消すこと」 2023年に刊行された写真集「透明人間 Invisible Mom」。そこに写るのは写真家・山本美里さん自身だ。今年3月に亡くなった三男 瑞樹さんが通った特別支援学校に付き添った自身の日々を可視化した。 瑞樹さんは、生後間もなく先天性サイトメガロウイルス感染症と診断され、たん吸引や人工呼吸器を必要とした。入学した特別支援学校には看護師がいたが、当時、瑞樹さんが緊急時に使用する手動の人工呼吸器具「アンビューバッグ」は保護者しか学校で扱うことが認められなかったため、毎日学校に待機せざるを得なかった。「使用するのは年に一度あるかないか。いつあるかわからない緊急連絡をただ待つために、一日中、誰もいない部屋に待機していました」。学校で求められたのは「存在を消すこと」だったという。修学旅行には自費で付き添いながら、記録写真には写らないよう求められ、給食は出ないので弁当を持参した。つらい状況を変えようと、学校や教育委員会に相談するも、変化はない。次第に追い詰められて、適応障害を患った。 その中で始めたのが写真だった。通信制の大学に入り、卒業制作として取り組んだのが『透明人間』だ。教員や校長も被写体として巻き込みながら「付き添い」の現実を可視化した。 学校と保護者は一つのチーム 「本来、学校と保護者は一つのチームであるべき。お互いに話を聞き合って、歩み寄って、ウィンウィンの関係でいられることが大事。先生方が作品に参加してくださったことで、『この状況を一緒に変えられるかもしれない』と感じられたのは、大きな救いだった」と振り返る。 写真集にしたのは「障害のある子の親は外出すら難しい。本にすれば、必要な人に家の中で見てもらえる」からだ。読者からは「これは私の話かと思った」「自分だけじゃなかった」との声が寄せられた。「医療的ケア児の親は少ないし、付き添っている親も少ない。障害によって状況も異なる。周りに似た状況の人がいないと、不満を抱くのは私がおかしいんじゃないか? みんな受け入れてるのにできないのは私の問題なんじゃないか?などと考えてしまう。本音も言えずにいる人は多い。だから『透明人間』を見て、自分の思いを言葉にしてもいいんだと思ってもらえたらうれしい。そういう橋渡しをするのが今の私の役目なんじゃないかなと思っている」と話す。(柴田大輔) ◆トークイベント「『透明人間』になった私たちのお話」は、9月20日(土)午後1時から午後3時30分まで、つくば市研究学園のつくば市役所コミュニティ棟で開催。定員60人、手話通訳あり。参加申し込みは専用サイトへ。申込締め切りは15日(月)。会場では、山本さんによる写真展「透明人間 Invisible Mom」の写真展も開かれる。展示は同会場で午後6時まで。問合せは、「つくば自立生活センターほにゃら」電話:029-859-0590、ファックス:029-859-0594、メール:cil-tsukuba@cronos.ocn.ne.jpへ。