【相澤冬樹】性格の異なる演算加速装置を2種類組み合わせた、世界で初めてのスーパーコンピューターが26日、筑波大学計算科学研究センター(つくば市天王台、梅村雅之センター長)で報道陣にお披露目された。4月から運用を開始するCygnus(シグナス)は、同センターにとって10代目のスパコン。会見で梅村センター長は「世界最速でも純国産でもないけれど、限界の見え始めたスパコンの開発競争に新たな方向性を提案するものだ」と胸を張った。
スパコンは、多くのコンピューターをつなげて、並列処理により高速の演算を実行するシステムで、1台1台をノードという。Cygnusは各計算ノードに、CPU(中央処理装置)に加え、計算処理を行う半導体チップのGPUを搭載、さらに一部のノードにはプログラマーが現場で論理回路を再構成できる集積回路FPGAを組み込んだ。いずれも市販品だが、2種の演算加速装置を合体させた例は世界初という。
一般にスパコンは、GPUの集積度を上げることで処理性能の高速さを競ってきた。巨大データの処理は得意だが、計算を進める際に分岐条件が出現するケースなどで性能が十分に発揮できず、実効スピードが落ちる弱点があった。FPGAはプログラムを書くのが大変だが柔軟性があり、接続すると装置内の高速通信も可能になる。GPUとFPGA、それぞれの特徴を組み合わて、性能の最適化が図るのが開発の狙いだった。
医療や気象研究に4月から運用開始
同研究センターは2016年度から3カ年、本体に約8億4000万円を投じてCygnusを完成させた。合わせて160基のCPU、320基のGPU、64基のFPGAで構成される。運用期間は6年の予定。「処理スピードだけなら他に早いものはいくらでもあるが、柔軟性を生かして高い演算性能と効率的な並列処理を持たせた。今後に新たな方向性を提供するものだ」(梅村センター長)という。
Cygnusのネーミングは、星座のはくちょう座に由来する。本体2台のノードは、それぞれはくちょう座のアルファ星デネブとベータ星アルビレオになぞらえられ、2種の演算加速装置を合体したノードは二重星アルビレオにちなんでいる。
スパコンを使った計算科学は、数値シミュレーションによるイメージング(可視化・映像化)に用いられることが多い。宇宙進化の謎に迫るなど、基礎物理での利用が盛んだが、近年は睡眠診断や手術ナビなど医療分野での応用に期待が広がっている。4月から約1カ月の試験期間を経て、5月に全国共同利用プログラムとして本格稼働する。すでに公募による19年度分の利用受付は終わっており、70件が採択された。気象やAIなどの研究テーマが決まっている。