【相澤冬樹】つくば国際戦略総合特区のプロジェクトを支援する「つくばグローバル・イノベーション推進機構」(つくば市吾妻、住川雅晴理事長)が、特に中高生に参加を呼びかけた特別セミナーが17日、つくば市春日の筑波大学高細精医療イノベーション棟で開かれ、最先端のがん治療技術が紹介された。県、同市、同大学が共同主催した。
「次世代がん放射線治療BNCTの開発実用化」(熊田博明・同大陽子線医学利用研究センター)、「放射線も霧箱で見られます―医療診断用ラジオアイソトープの国産化」(土谷邦彦・原子力機構大洗研究所環境技術開発センター)の2講演が行われた。
同特区は2011年から順次スタートし、現在合わせて9のプロジェクトを抱えるが、東海村のいばらき中性子医療研究センター、大洗町の原子力機構(JAEA)大洗研究所を拠点に研究開発中の両事業は、現状があまり伝わっていない。
今回は中高生にもわかりやすくという意図で開催されており、会場を市民ら約50人が埋めるなか、「つくば国際戦略特区」も初耳という高校生らが10人ほど参加した。私立高校の女子生徒は「放射線は難しそうだけど、がん治療に興味があって参加した」という。
今年中に動物実験を開始 東海村のBNCT加速器
講演のうち、ホウ素中性子捕捉治療法(BNCT)は、がんの患部にホウ素入りの薬剤を送り込み、中性子を打ち込んでホウ素から発生したアルファ線でがん細胞を破壊する仕組みだ。同大を中心に高エネルギー加速器研究機構、JAEAなどが、加速器を使った装置の開発を進めている。
熊田氏によれば、東海村に設置した加速器は本体の長さ約7メートルの小型のもので、陽子を光速の13%に加速して標的のベリリウムに当てると、電荷のない中性子がはじきだされ患部まで届く。ホウ素から出るアルファ線の飛距離は10ミクロンほどで、ちょうど細胞1個分の距離、周囲の正常細胞を破壊することなくがん細胞だけを狙い撃ちできる。このため頭頸部(とうけいぶ)がんや悪性黒色腫の治療に有効で、再発乳がんなどにも適用の可能性があるという。
BNCTは、これまで研究用原子炉を使った研究が主流だったが、老朽化し廃炉となっている流れに加え、国内では病院に設置できないことから、加速器利用にシフトしている。住友重機械工業製の加速器を使う福島、大阪の治験施設からは本年中に薬事承認申請が出される見込みで、来年には治療スタートの見通しになっている。東海村の装置はほぼ完成したものの、加速器のビーム強度が高く調整に手間取っていた。今年中に動物実験を開始、薬剤メーカーと協議して早々に治験に移る構えでいる。