山口絹記

《ことばのおはなし》18 私のおはなし ⑦

【コラム・山口絹記】誰かに手を引かれた気がして目を開けると、先程の医師が肩越しに私の顔を見下ろしていた。立ち去ろうとしている医師の白衣の裾(すそ)を、私の右手がつかんでいたのだ。離そうと思っても手が動かない。何か言わなけ […]

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《ことばのおはなし》17 私のおはなし⑥

【コラム・山口絹記】気を抜くと重たい眠気にまぶたを閉じそうになる。意識が飛びかけるたび、ピアノのかすかな音色が聞こえた気がした。 「脳内の血管異常、感染症の可能性もあります」。医師の発言内容を深く吟味する余裕がない。脳内 […]



《ことばのおはなし》15 私のおはなし④

【コラム・山口絹記】最初の失語発症から4~6日後の夜にも、15分程度の自覚できる失語があった。様々なことを試してみた。 おそらく、脳腫瘍か軽度の脳梗塞だろう。若年性アルツハイマー病になるには早すぎる。脳出血であれば1日置 […]


《ことばのおはなし》14 私のおはなし③

【コラム・山口絹記】私たちは、世界の一部を、ことばというフィルターを通して見ているのかもしれない。 最初の失語症発症から2日後の夜、日課のオンライン英会話の直後に異変が起きた。英会話中に思い出せなかった単語を調べようとパ […]


《ことばのおはなし》13 私のおはなし②

【コラム・山口絹記】何かを思い出すという行為は、深い海にボンベ無しであてもなく潜るのに似ている。濁っているときは何も見えないし、海底まで見渡せるときもある。基本的には息が続くところまでしか潜れないし、あともう少しと手を伸 […]


《ことばのおはなし》12 私のおはなし

このコラムでは、言語について研究している私が、日々の生活の中でことばについて感じたことを徒然(つれづれ)なるままに書いてきたのだが、連載を担当させていただくきっかけとなったのは他でもない、私自身の“ことばを失う”という体 […]


《ことばのおはなし》11 メガネのおはなし

【コラム・山口絹記】最近、メガネを新調した。とても調子が良い。 見えなかったものが見えてくる、というのはことばの綾(あや)ではない。画像の粒度が細かくなり、認識できる情報量が増えるのだ。 情報量が増えるのは良いことのよう […]


《ことばのおはなし》10 微分のおはなし

【コラム・山口絹記】「言語学って、どんなことやってるの?」。たまにこのような質問を受ける。大雑把だが大切な質問だな、と思う。何か自分自身の興味に忠実に学び続けていると、こうした根本的な質問に答えられなくなることがある。 […]


《ことばのおはなし》9 桜のおはなし

【コラム・山口絹記】4月の中頃のことである。 薄暗い古本屋の片隅で古書を物色していた私は、古書の匂いに混じった懐かしい香りに目を上げた。 書棚から、女性が本を抜き取ろうとしているところだった。ああ、香水だったのか。私は一 […]



《ことばのおはなし》7 あなたと私のおはなし

【コラム・山口絹記】あなたは今、私が書いた文章を読んでいる。これは事実だろう。そして、恐らくパソコンかスマートフォンを使っているのではないだろうか。 いや、もしかすると、私がまだ知らない技術で生み出された、21世紀初頭で […]


《ことばのおはなし》6 鳥のおはなし

【コラム・山口絹記】私は数年前、脳出血による失語と右手の失行を発症して緊急入院し、開頭手術を受けた。手術は成功し、幸い日常生活に差し障るような後遺症は残らなかったのだが、術後間もないころは言語機能にかなりの違和感があった […]


《ことばのおはなし》5 雑煮のおはなし

【コラム・山口絹記】年賀状じまい、ということばを聞くようになった。 年賀状をやめる人が増えている、ということらしい。一つの社会における文化というものは、その外や後の世から見れば不合理で無意味に感じるものだ。それでも、一度 […]


《ことばのおはなし》4 みかんのおはなし

【コラム・山口絹記】図書館で調べ物をしていると、覚えのある詩の一節が目に入った。 君知るや南の国 レモンの木は花咲き くらき林の中に こがね色したる柑子(こうじ)は枝もたわわに実り 青き晴れたる空より しづやかに風吹き […]