【コラム・オダギ秀】人生という旅の途中で出会った人たち、みんな素敵な人たちでした。その方々に伺った話を、覚え書きのようにつづりたいと思っています。

人は昔々、鳥だったのかも知れないね、と言う曲があるが、この人は本当に、むかし鳥だったのだろうと思えるような人と、時を過ごした。

「そこのユズの木に、モズの夫婦が住んでたの」

その人は、近所の家のうわさ話をするように、のぞき見たモズ夫婦の生活を話し始めた。大田黒摩利さん、つくば市に住むイラストレーターだ。自然の中に生きる鳥などの生態や姿を、細密に描いて紹介する絵本をたくさん作っている。田んぼを見渡す高台の仕事場は、初夏の風が心地好かった。

「色々なドラマがあるんです。巣立ち前のヒナを失ったらメスが出て行ってしまって、オスだけが残されボウッとしてたり。別れた2羽が時々電線で会って、うまくやってるかあ、みたいな態度してるから、人間と同じだなあと思います。そんな姿を見ていると、本質的には生き物って、みんな違いがないんじゃないかと思うんですよ」

この人は、近所の奥さんが近所の様子に好奇心を持つように、近所の鳥の家族の生活が面白くてたまらない、という表情を見せた。とても素敵な、優しさに満ちた好奇心の塊なのだろう。

「珍しい鳥ではなくて、ごく普通の、その辺にいる鳥の暮らしぶりを見るのが好きなんです。そしてそれを子どもたちに教えてあげたい。キジがプロポーズする時に踊るとか、縄張りを宣言する時にバタバタとやるとか、子どもたちは知らないと思うんです。それを教えてあげたいんです」

その気持ちが「鳥のくらし図鑑」(偕成社刊)という絵本図鑑になった。身近な野鳥が、春夏秋冬、どのように暮らしているか、生き生きと表現されている。緻密な観察に、誰もが驚く。

「この羽 だれの羽?」(偕成社刊)では、公園で拾った鳥の羽の実物大イラストで、その羽の持ち主がわかるように描いた。彼女がすごいのは、鳥の翼とか尾とか、各部位の羽の働きや違いまで、丁寧に描き分けていることだ。自分が住んでいる世界のことのように、誠実に向き合って描ききろうとしている。

だから、「大田黒さんは、むかし、鳥だったんじゃないですか?」と聞いてみた。

すると、「空飛んでいた記憶はないなあ」と言いながら、すぐ「そうだったらカッコいい。生き物たちと、同じ気持ちになることがあるんですよ」と、うれしそうに付け加えた。やはりこの人は、むかし鳥だったのかも知れない。(写真家)

「こんにちは」声をかけたのは、虫かな花かな?大田黒さんの絵本から。