【コラム・先﨑千尋】「被告は大飯発電所3号機及び4号機の原子炉を運転してはならない。ひとたび深刻な事故が起きれば、多くの人の生命、身体やその生活基盤に重大な被害を及ぼす事業に関わる組織には、…安全性と高度の信頼性が求められて然るべき」

2014年5月の福井地裁大飯原発運転差止め訴訟の判決の冒頭の文だ。判決文を書いた樋口英明さんは、その後積極的に講演に歩いている。また、「原発を止めた裁判長-そして原発を止める農家たち」という映画にもなり、昨年9月から公開されている。

「三井ホームは5115ガル、住友林業は3406ガル。それに対して原発は620から1209ガル。原発の耐震基準は一般住宅よりも低い。とてつもなく危ない」。これでは、怖くて原発を動かせないではないか。私は5月13日に東京で開かれた「脱原発をめざす首長会議」の総会に合わせて開かれた講演会で樋口さんの話を聞いて、背筋が寒くなった。

樋口さんが原発の再稼働を止めるべきだとしている根拠の最も大事なことは、日本は地震大国であるのに原発の耐震性が極めて低いことだという。東京電力福島第1原発事故の時の震度は6強、800ガルだった。ガルは原発の耐震設計基準(基準地震動)に用いられる単位であり、地震観測でも震度以上に重要な単位とされている。

樋口さんの集めたデータでは、2000年以降でも1000ガル以上の地震は17回起きており、被害が大きかった熊本地震は1740ガルだった。私たちの近くにある東海第2原発は現在1009ガルに設定されている。

「原発は自国に向けられた核兵器」

樋口さんはさらに、日本の原発は岩盤の上に建っているから安全だという原発推進派の主張に真っ向から反論する。東海第2もそうだが、日本の原発の半分は岩盤の上に建っていない。さらに、岩盤上の揺れが地表上の揺れよりも大きい場合があった、と指摘する。

「地震は、観測も実験もできない。資料もない。要するに、地震のことは専門家にも分からないのだ。それなのに、原発の敷地に限っては強い地震は来ないというのが原発推進派の言い分だ。この主張を認めるかどうかが原発差止め訴訟の本質だ」。

「老朽原発は、老朽家電でも老朽自動車でもない。老朽大型飛行機に似て、コントロール不能になってしまう。想定外の事故が想定できる。日本には、青森県六ヶ所村の核燃料サイクルが破綻していることで分かるように、高い技術力も能力もない。原発は自国に向けられた核兵器だ」。

樋口さんの語りは、ゆっくりで淡々、理路整然としている。パワーポイントで示されるので分かりやすい。

最後に、「無知は罪、無口はもっと罪」という言葉を引いて、私たちに「原発の本当の危険性を知ってしまった以上、それを多くの人に伝えるのが自分の責任だ。私の話を聞き、本を読んだ人も、自ら考え、自分ができることを実行してほしい」と静かに話した。私の心に響いてきた。(元瓜連町長)

<追記> 樋口英明『私が原発を止めた理由』(旬報社)も参考にした。