【コラム・小泉裕司】

大曲の花火~春の章~4.29

大会プログラムの一つ、45歳以下20人の花火師による「新作花火コレクション」に出品した山﨑煙火製造所(つくば市)の佐々木恵(けい)さんは、10号玉芯入割物の部で見事初優勝(大会結果)。作品名は「昇曲導付三重芯菊先銀点滅」(筆者撮影)。

筒から打ち出された花火は、「曲」と呼ばれる小さな花を開きながら上昇し、最高点で星が尾を引きながら4つの同心円(外側の円は芯に数えない)を描く菊型花火。消え際に銀色の煌(きら)めきを発する。

山﨑煙火は、昨年の土浦10号玉の部「五重芯銀点滅」で優勝、本年、創業120周年の節目を迎える老舗中の老舗。今や名実ともに不動の地位を確立した現会長の山﨑芳男氏の十八番(おはこ)は、脈々と弟子達に受け継がれ、「多重芯の山﨑」「銀点滅の山﨑」と言われるほど。

その完成度の高さ・安定度では、国内、野村花火工業(水戸市)と双璧をなす。本日、11月4日に土浦全国花火競技大会開催決定との報。茨城勢は今シーズンも盤石の予感。

陸前高田~三陸花火大会~4.30

「春の三陸 奇跡と軌跡」。大会翌日の某全国紙は、「奇跡の一本松」のモニュメントと彩り豊かな花火を重ねた写真を掲載し、再生が進んだ花火会場周辺をこう表した。

2014年、東日本大震災で壊滅的な被害を受けた岩手県陸前高田市を訪れた。近くの山を切り崩した岩や土を被災地域に運ぶベルトコンベアが、はるか高いところを石油パイプラインのように縦横に走る光景に圧倒された。

あれから9年、広大でフラットな海岸沿いは、大きな復興工事が終了し、津波被害を伝える「津波伝承館」や新商店街が整備されるなど、変容した高台からの眺めは、感慨深く、想念を巡らした。

2012年3月、土浦市立真鍋小学校、土浦第二中学校の児童・生徒はじめ40人近くが陸前高田市を訪れ、桜の植樹に参加し、地元住民と交流。真鍋の桜保存会は、県の天然記念物「真鍋の桜」のクローン苗1株を寄贈した。当時の桜は、2年後の2014年に根付いたのを、そして今回、緑の葉が幾重にも生い茂り、順調に育っているのを確認し、ほっとした次第。

大手食品スーパーのカスミ(つくば市)は、小浜裕正前会長のご縁をきっかけに、2011年から復興支援カレンダー「明日暦(あしたごよみ)」による募金活動をスタート。翌年からは、地域を越えた交流活動「陸前高田七夕まつり体験学習」など、陸前高田の復興支援に取り組んできた。

筆者は、暦を初編から複数部入手。職場の壁面に掲示し、月ごと、地元の皆さんの笑顔とメッセージコピーから届く逆エールに励まされたことを思い出す。

「三陸花火」は、こうした被災地支援活動の一つとして、2020年10月から始まった。土浦と大曲両大会で内閣総理大臣賞を受賞した㈱マルゴー(山梨県)が打ち上げを担当。年2回春・秋に開催。今回もコズミック(宇宙)系といわれる得意の時差式花火(筆者撮影)満載のプログラム。

次回は、今年の10月8日、「大曲の花火~秋の章~」の翌日に開催予定。東北花火紀行は、秋の編に続く。

「雨雲が近づいているようです」。大曲の会場入口で遭遇した花火鑑賞士仲間の情報は、冷雨で体の芯まで凍えながら見た1年前を想起。昨年、実行委員会本部長が参拝し、無事終了した土浦の実績(昨年11月20日掲載コラム)を踏まえ、天気の神様「気象神社」(東京高円寺)のお守りを持参したのだが、不用意にもホテルに忘れたことを後悔した。

結果は、風向きによる多少の煙待ちはあったにせよ、打ち止めのアナウンスまで、8000発の打ち上げをコンプリート。「天気よければ、すべて良し」。本日は、この辺で「打ち止めー」。「ドン ドーン!」。(花火鑑賞士、元土浦市副市長)