【コラム・玉置晋】2018年2月5日に茨城大学で開催されたシンポジウム「歴史資料を活用した減災・気候変動適応に向けた新たな研究分野の創成」は刺激的な試みだと思います。僕の指導教官の茨城大の野澤恵先生のグループからも「茨城県内の歴史資料による科学研究への活用提案」という題目で発表がありました。

発表したのは理学部4年生の宮崎君(学部4年生でこの様な大舞台で発表するのは大したこと)です。彼の研究によると、「江戸時代の梅雨は現在よりも雨が少なかったかもしれない」とのこと。土浦の商人で国学者の色川三中(いろかわ・みなか)と弟の美年(みとし)が遺した日記「家事志」には、日々の天気や気象データが含まれており、これを抽出し、現在の気象と比較を行ったわけです。

このシンポジウム、なかなか刺激的な試みです。何かというと、分理融合イベントなんですね。日本人は高等学校で文系クラス、理系クラスに分かれた後、文系民族と理系民族に分かれて、一生、民族思想を掲げがちなのですが、それを打ち破るパンクな試みといえます。この様に分野を超えたアプローチの事を「interdisciplinary(インターディシプリナリー)」と言うそうです。「学際的」とでも訳しましょうか。

古典と科学を融合した「学際的な」動きは宇宙分野でも試みられ、成果が出ています。宇宙天気防災分野について勉強研究していると、ある壁が立ちはだかっていることに気づいてしまったわけです。それは、宇宙天気の科学データがまとまっているのは20世紀後半以降で、わずか半世紀の宇宙天気しか把握できていないということ。そこで注目するのが古典です。三中の「家事志」に記載されていた科学データは気象に関するものでしたが、宇宙天気の様子を示す記録があってもおかしくないわけです。

人工衛星がない時代にも観測できた宇宙天気現象には何があるかというと、まずは太陽の黒点です。中国や日本では、肉眼でも見える巨大な太陽黒点は「日中有黒子」として記載されています。サッカー日本代表のエンブレムにある3本足のカラス「八咫烏(やたがらす)」は黒点を表現したものとも言われています。あとはオーロラですね。大規模な太陽活動の後には、日本でも赤いオーロラがみえることがあります。この様なオーロラは「赤気」と記載されています。

昨年、スペース・ウェザー誌に発表された論文「Ryuho, Kataoka.; Kiyomi, Iwahashi. Inclined zenith aurora over Kyoto on 17 September 1770: Graphical evidence of extreme magnetic storm. Space Weather AN AGU GOURNAL, 2017, DOI: 10.1002/2017SW001690.」によると、1770年に京都で目撃された赤いオーロラに関する記述、描画が古典に記載されており、その様子を分析すると、1859年に発生した宇宙天気大擾乱(じょうらん)「キャリントン・イベント」(コラム3回目参照)を超える規模だった可能性もあるとのこと。

衝撃的なのは、この2つの宇宙天気大擾乱のタイムインターバルが100年未満という点です。来年で「キャリントン・イベント」から160年が経つことを考えると、寒気がします。(宇宙天気防災研究者)