【コラム・田口哲郎】
前略

桜の季節ですね。つくば市周辺もいたるところできれいな花が見られます。先日、手代木公園を散歩していたら、野球場のまわりに植えられている桜がみごとに咲いていました。桜が満開の光景はどうしてあんなに静かなのでしょうか? つくば市は騒音もあまりなく閑静なので、上野公園で見る桜よりも静かに感じるのは確かでしょう。

でも、現実の音の状況というよりは心象風景という気がします。花びらが散っているシーンを思い浮かべてみてください。無音のイメージではないでしょうか。それははかなさと関係しているのではないかと思います。咲きほこる花はきれいですが、1週間で散ってしまいます。生けとし生けるもの、若さのうちには力がみなぎり、老いてくれば衰えます。

盛者必衰のことわりをあらわすわけで、古来日本人はそのはかなさにも美しさを見出してきました。はらはらと地に落ちる、うす桃色の花びらを眺めながら、わたしたちは生命の勢いのなかに死の予感を読み取ります。そのときは外界の音が消えるほどに精神が集中するのでしょう。

ひとしきり感傷にひたったら、おなかが空きます。最近の気温の乱高下で体力が消耗しているのです。花よりだんごです。

年に一度は桜を見て、人の生きる道について思いをはせる。でも、腹が減ってはなんとやら。桜を愛(め)でてだんごを食べる。こう書くと、人間とはいかなるものかを言いつくしているようです。食べてゆく現実的な基盤と何かに思いをはせるこころの部分。そのふたつがなければ人間生活というものは成り立たないというわけです。このように何千年も日本人をよろこばせて、はげましてきた桜は本当にすごいですね。

極上のだんご「つくば」

さて、先日同じ研究室の学生と話していました。その人は生まれも育ちもつくば市というまさに、つくばサラブレット。つくばの観光名所はなんだろうという話になり、スマホで検索したところ、観光名所ランキングなるサイトを発見。1位筑波山、2位JAXA筑波宇宙センター、3位にイーアスつくばがランクインしていました。

ショッピングモールが観光名所になるのか!? とざわついていたところ、その人がつぶやきました。「筑波山と研究学園は結構離れているからねえ。あちらは古くて歴史があるけど、学園は平野に新しくつくった街だもんね。生活に必要なものはなんでもあるけどね」

誤解を招かないように補うと、これはつくば愛にあふれている人の発言です。生活便利施設は充実。おいしいパンとラーメンもたくさんある。道も広く、街並みがきれい。公園も多い。研究所群はテクノロジーの発信基地。研究学園はおだんごとしては極上です。

花も極上のはずです。桜はいたるところで咲いています。でも、それはつくばにかぎらず、日本中でみられる風景です。つくばがおなかのみならず、こころも満たせる街であることをお伝えできるようにこころがけます。ごきげんよう。

草々(散歩好きの文明批評家)