【コラム・山口京子】日本コーポレート・ガバナンス・ネットワークの特別プロジェクト「失われた30年 どうする日本」のシリーズ第2回(8月24日)で、寺島実郎氏のオンライン講演を視聴しました。今回は、寺島氏の「現在の日本の立ち位置と再生の基軸」の内容を紹介します。

今の日本で本気に問題にすることは何か? ディベロップメント(開発)を実現させつつ、サステナブル(持続可能)であることではないか。知っておくべきファクトは、埋没する日本を直視すること。「健全な危機感」が問われているとして、世界に占める日本のGDP(国内総生産)の推移を示した。1950年3%、1964年4.5%、1994年17.9%、2000年14%、2010年7%、2020年6%、2030年予想4%―。GDPの額で見ると、日本は2008年来、ほぼ実質ゼロ成長という現実。

アベノミクスを総括すると、三本の矢の一つ目の異次元金融緩和、二つ目の財政出動で調整インフレ政策がとられたものの、資金需要はなく、貸し出しは増えなかった。他方、ジャブジャブマネーは株高と円安に向い、円安は輸出産業の競争のハードルを下げた。しかし、産業構造で食とエネルギーを海外に依存するこの国では、マイナスの面を持つとして、工業生産力モデルにとって円安が望ましいという固定観念には異議を向ける。

アベノミクスは、資本主義の競争を通じて切磋琢磨(せっさたくま)するということより、マネーゲームでラクをして生きる方向に舵(かじ)を切らせたのではないか。株式市場についていえば、公的資金も株高を支えている。GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)や日本銀行のETF(上場投資信託)買いなどで85兆円も注入されており、そのため実力以上の株価になっているのは、「自堕落な資本主義」だと釘(くぎ)を刺す。

「食料自給率は現在の38%から70%に」

そして、日本再生の基軸として、脱工業生産力を提起する。今までの「豊かさを実現すれば、平和と幸せはついてくる」というコンセプトから、「国民の安全と安定」(経世済民)と「持続可能な成長」(SDGs)にシフトさせる。ファンダメンタルズは、原点回帰の産業基盤強化で、食と農・医療・防災に取り組む。イノベーションは、DX(デジタルトランスフォーメーション)、グリーン(環境、脱炭素エネルギー)で対応する。

また、食料自給率をカロリーベースで現在の38%から70%に上げる。食と農についていえば、生産・加工・流通・調理のサイクルを強化し、イノベーションを利用し付加価値を高める。医療では臨床研究を重視し、防災は道の駅を防災拠点とする構想を掲げる。

ファンダメンタルズとイノベーションは両方が大切としたうえで、ファンダメンタルズを立て直さないと、日本の安全と安定は図れないと強調する。「戦後、工業生産力モデルでひた走り、忘れてきたことを立て直すことが求められている」という言葉の意味するところは深い。

自分がどこにいるのか、どういう社会に暮らしたいのかを考えるきっかけとなる貴重な講演でした。実家では、ナスの収穫とニンジンの間引き、次の野菜づくりのために土地を耕しました。見渡すと、手入れをする人がいなくなった畑や田んぼの荒れた様子が目立ちます。(消費生活アドバイザー)