【コラム・冠木新市】つくば市の中心は、長方形のつくばセンター地区である。さらにセンター地区内の中心地は、複合施設センタービルの楕円型の広場となる。岩の崩れる廃墟のイメージで造られた広場には色々な仕掛けが施されている。その一つに、広場を2階から見下ろすと、“霞ケ浦”の形が隠されているのが分かる。またY字形の“霞ケ浦”の左先端部から一直線に延びた所に、水が流れ落ちる窪みがあり、実はその“水たまり”がつくば市の本当の中心なのである。

ロシアの映画監督アンドレイ・タルコフスキーに『ストーカー』(1979年)というSF作品がある。隕石が落ちた場所が“ゾーン”と呼ばれ、そこに足を踏み入れた者は2度と戻って来られず、立入禁止地域となっている。そのゾーンに、貧しい労働者の「ストーカー」が、「作家」と「教授」を案内して旅するという物語である。この作品、SFといっても特殊撮影は使用せず、緑豊かな自然の景色の中で話が進行するため、きわめてリアルな印象を受ける。

3人は、ゾーンにある人間の願いごとを叶える“部屋”をめざす。途中、「ストーカー」は、「作家」と「教授」の身勝手な言動に悩まされながら、廃墟跡にある目的の“部屋”に到着する。しかし、“部屋”を前にして連れの2人は尻込みする。2人は、自分の思い描く願いが叶うのではなく、自分の無意識の思いの方が実現してしまうと知り、急に恐れを抱いたからである。3人が目前にした“部屋”には“水たまり”があるのみだ。

ゾーンから戻った「ストーカー」は妻に荒々しく語る。「今度ばかりは疲れた。苦しかったよ。あんな作家や学者ども、何がインテリだ」「自分を売り込むことしか、奴らは考えていないんだ。考えるのも金ずくだ。それで妙な使命感を持ってやがる。あんな浅知恵で何が信じられるものか」「一番恐ろしいことは、誰にもあの“部屋”が必要ないことだ」。

平成29年12月号「広報つくば」に、市民意識調査の結果が載っている。それによると、つくば駅周辺のにぎわいに「不満を持っている人」は43.6%、「満足している人」は41.1%だ。「つくば駅周辺の活性化のために必要な取り組みは」の問いには、商業施設の誘致が28.7%(平成27年は8.7%のため20%上昇)と、一番高い回答になっている。結局、商業施設頼みになっている。今のところは。

私は思う。センター広場の“水たまり”が、映画『ストーカー』の願いごとを叶える“部屋”の“水たまり”だったら、と。つくば市民は本当に中心地区活性化を望んでいるのだろうか。一番大事なことは、いや必要なことは切実なる思いではないかと。そう、私は団員たちに語りながら、私自身は「作家」と「教授」の立場か、それとも「ストーカー」の立場かと自問していた。心の底の“水たまり”には何があるのだろうか。サイコドン ハ トコヤンサノセ。(アートプロデューサー)