【コラム・中尾隆友】菅政権が日本の生産性を引き上げるために中小企業再編論を掲げている。ただし問題なのは、その手段にある。菅政権は最低賃金の大幅な引き上げを通じて、中小・零細企業を次々と淘汰していく考えを持っているからだ。実際に菅首相は最低賃金の引き上げについて、ことあるごとに「5%程度を目指す必要がある」と述べている。

最低賃金が低いから経営が成り立っているような中小零細企業は淘汰されるべきだ。中小・零細企業の淘汰が進めば、日本の生産性は上がるはずだ。菅政権の中小企業再編論は、そういった論理で成り立っている。

これは少し考えればわかることだが、この考え方では「中小零細企業の経営者がやる気を出せば生産性を高められる」と言っているのと何ら変わりがない。精神論の類に近いといわざるをえず、論理的に破綻している。

たとえば、最低賃金を毎年5%ずつ引き上げていくと、5年で1.28倍に、10年で1.63倍になる。ということは、現在の最低賃金(全国平均902円)は3年後に1000円を突破し、5年目に1100円、10年目に1400円を超える。

その帰結として、地方でアルバイトやパートで成り立っている零細企業の大半は、雇用を保って赤字経営が慢性化するか、雇用を削って縮小均衡を図るか、倒産・廃業をするか―主に3つの選択を迫られることになる。

大半の零細企業は淘汰される可能性が高い。そのときに真っ先に失業に追い込まれるのは、低賃金だからこそ仕事にありつける、特別なスキルを持たない人々だ。最低賃金の無理な引き上げは、最も社会が助けなければならない人々をさらなる窮地に陥らせてしまうわけだ。

つぶれなくてもいい企業までつぶれてしまう

そもそも最低賃金が低いから成り立っているような企業に対して、生産性が低いゾンビ企業と一律にみなすのは、非常に浅はかな考えだ。低賃金の労働に支えられる企業のなかには、デジタル化や自動化が難しいうえに、私たちの生活に欠かせないサービスを提供するものも多いのだ。

そういったサービスが最低賃金の大幅な引き上げによって失われるようなことになれば、それは経済的にも社会的にも大きな損失だ。企業が淘汰されるか否かは、消費者の動向が決めるべきであり、政府が最低賃金の大幅な引き上げによって基準を決めるというのは正しいといえないのではないか。

さらに付け加えれば、最低賃金を上げ過ぎると、つぶれなくてもいい企業までもがつぶれてしまうという弊害がある。競争力のある健全な企業までもが、淘汰の波に巻き込まれてしまうというのは、由々しき問題だ。

中小零細企業が多い地方にとって、菅政権の中小企業再編の動きは目が離せない。(経営アドバイザー)