【コラム・及川ひろみ】冬の宍塚大池では「ピリピリッ」と、澄んだ可愛らしい声が池の奥の方から聞こえてきます。鳴いているのはコガモ。ハトより少し大きい小型のカモです。コガモでよく聞かれるのは「子どものカモですか?」。いえ、立派な成鳥です。雄(おす)は頭が栗色、目の周りから後頭にかけて濃い緑。雌(めす)は褐色で、黒褐色の斑(まだら)が全体にみられます。

コガモはユーラシア大陸北部で雛(ひな)を育て、早いものは9月に日本にやって来ます。渡って来たばかりのころは、雌も雄も同じような色です。繁殖期、雄が派手な色合いだと、キツネなどの天敵に襲われやすいことから、この時期は雌同様、自然に溶け込む地味な色です。日本に来てからしばらくして、ヒレのついた脚で搔(か)いて羽根を抜け代わらせ、美しい姿に変わります。

宍塚にやって来る10数種のカモのほとんどの雄は、到着後、美しい姿に変身します。それで雌へのアピールを行い、番(つがい)が成立します。今ごろから、雄が雌に向けて盛んに求愛ディスプレー(誇示行動)するのが見られるようになります。

コガモでは、数羽から10数羽の雄が1羽の雌を囲むように円を描き泳ぎながら、頭を下げ体を伸ばし、お辞儀(じぎ)をしているかのように泳いだり、見せかけの羽づくろいをしたり、体をそらせて尾をぴんと上げたりと、様々なポースで雌の気を引きます。メスのOKが取れたオスは素早く雌の背に乗り、交尾(こうび)を成功させます。なんとも愛らしい姿です。カモによってディスプレーの姿は様々。見どころです。

水鳥はどうして濡れないのか?

さて、カモだけでなく、カイツブリやバンなど、池に浮かぶ鳥たちはどうして水に濡れることがないのでしょうか。

野鳥の多くは、ポマード状の脂(あぶら)が詰まった尾脂線(びしせん)と呼ばれる袋が尾羽の付け根(腹)にあります。この脂を嘴(くちばし)で体に塗り、水をはじいているのです。2007年大池で死亡したコナクチョウを解剖したとき、尾の付け根の腹の凹みに指を入れると、薄黄色のねっとりとした脂が出てきました。優雅に水面に浮かぶカモですが、頭の先端にまで脂を塗りたくる姿には、生きるものの必死さが伝わってきます。

30年ほど前、大池ではコガモが最も多いカモでした。現在はマガモです。かつてはほとんど見られなかった、オカヨシガモやオオバンがここ数年とても数を増やしています。どちらも全国的に増加傾向にあると、先日、野鳥の会の金井裕さんから聞きました。年によりやって来るカモの傾向が変わりますが、長い目で環境の変化を捉えるとことが大切です。

この冬は種類も数も例年より多く見られます。宍塚大池で冬の水鳥をお楽しみください。(宍塚の自然と歴史の会代表)

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