【コラム・室生勝】病院の救急医がいま抱えている問題に、救急医療で危機を脱した患者の身体機能の低下がある。数日間の絶食で咬(か)む・飲み込みの咀嚼(そしゃく)・嚥下(えんげ)をしないため、あるいは病気の悪化のため、咀嚼・嚥下機能が失われる状態になる。また、安静で下肢筋力が衰え歩行困難になったり、認知機能が低下したりすることだ。

在宅の高齢者が肺炎で通常の救急搬送で一般病棟に入院した場合も、咀嚼・嚥下機能の低下、歩行障害、認知症が始まったりすることがある。特に75歳以上にみられるという。その対策として、病気の治療と並行して、早めに口腔(こうくう)リハビリや坐位・起立訓練などが実施されている。

私は診療所医時代、在宅患者の病状が悪化し、在宅医療が困難になって入院を病院に依頼する場合、「早めの入院、早めの退院」をお願いした。その理由は入院で下肢筋力などの低下を避けるためであった。

在宅医療を行っている診療所医には、在宅療養支援診療所(在支診)の設置基準の一つ「緊急時に在宅での療養を行っている患者が入院できる病床を常に確保していること」とあるように、いざというときに入院できるベッドが必要である。それに対応してくれる「在宅療養支援病院」はつくば市にはない。

「在宅療養支援病院」と同じ役割をもつ「地域包括ケア病床」がある病院は、つくば市にある。同病床は、急性期病棟で治療を終えた患者が介護施設へ移れない、あるいは在宅復帰できないときに受け入れる病棟で、在宅医療中や施設入所している高齢者の緊急時の受け入れも行っている。

在宅医療主治医は在宅患者の緊急時あるいは重症化したときの入院依頼時に「診療情報提供書」を病院医に届ける。その提供書には最近の病状と治療内容を書くスペースしかなく、患者がいままで罹(かか)った病気、生活習慣(喫煙、飲酒、味覚の嗜好など)、性格、家族関係、介護状況などを記載するところがない。

診療情報提供書に書き切れない情報を、前回コラムに書いた「連絡ノート」に患者や家族が普段から書き入れておき、入院するときに持参し、治療や患者とのコミュニケーションに役立ててもらいたい。認知症がある場合には病院看護に大いに役立つ。

サイズを大きくし記載項目を多く

連絡ノートは在宅の高齢者に関わる多職種(医師、歯科医、薬剤師、訪問看護師、リハビリ職、デイサービスやデイケアの職員および訪問介護のヘルパー、ケアマネジャーなど)が連携するため、またサービス提供時に高齢者の様子を他の職種に伝える連携ノートとして使用されていた。

しかし、診療所受診や通所サービス(デイサービスやデイケア)を利用する際に持参し、高齢者の状態をサービス提供者に記載してもらっていないようだ。医療機関同士の連携にも使用されていない。病院の救急医は、救急車で来院する高齢者の医療情報を「お薬手帳」から得ているようだ。

つくば市は多職種連携のため、A5版のビニール製、名刺大ポケットがあるルーズリーフ形式の「医療・介護連携ノート」を作成したが、サイズをもう少し大きくし、記載項目を増やす必要がある。高齢者が通院、通所サービス、短期入所の際に持参し、医療者や介護職からケアチームへの情報提供や本人・家族へのメッセージを記載する利用法があってよい。

市は後期高齢者に「医療・介護連携ノート」を提供してはどうだろうか。今まで罹った病気、治療中の病気と薬、罹っている診療所医や検査を受けた病院名、リビングウィル、かかりつけ医の協力でアドバンスケアプランニングを書いておけば、緊急入院する場合も救急医は大変参考になる。(高齢者サロン主宰)

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