金曜日, 3月 29, 2024
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小中学校でゲストティーチャーに 《邑から日本を見る》128

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木造の那珂市立瓜連小学校校舎

【コラム千尋「私は先﨑さんの話でかっこいいなと思うことがありました。それはふるさとを大切にしていること、そしてふるさとにほこりを持っていることです。自分が勉強したことを社会のために生かそうとする姿勢がとてもかっこいいと感じました」。私は昨年秋、瓜連小学校の5、6年生と中学校の1年生24人に、ゲストティーチャーとして「自分のキャリアをデザインしよう」という話をした。

私だけでなく、市長、住職、花栽培農家、看護師、消防士、新聞記者など、瓜連地区に住んでいるさまざまな職種の人が教壇に立った。

「自分の人生について考えようという総合的な学習の時間」の一コマで、地域と学校の子どもたちはつながっていることを学ばせたい、地域で活躍する人の話を聞き、自己の生き方を考えていく資質・能力を育成させたい、というのが学校側のねらい。3学年の生徒を異学年交流させ、一緒に聴いたあとで、講師の話をどう受け止めたかをディスカッションするというのがみそだ。

私はこの中で、小学生の時から家の仕事(農作業)を分担してやった、宿題は少なく放課後は友達とよく遊んだ、貧しかったが楽しかったという70年も前の子どもの暮らしや、小中学校の時どういう勉強をしたのか、社会に出て大事なことはどういうことかなどを話した。私が強調したのは、とにかくたくさん本を読むことと友だちをたくさん作ることの二つ。本を読むことによって、自分の世界が広がっていく楽しさを語った。

多くべばそれだけ遠くへ飛べる

そのあと、しばらくして子どもたちから手紙が届いた。冒頭の文もその一つ。他に「自分がどう生きたいのかは自分で決める。瓜連はステキな所だということがわかった。本をたくさん読む。食べることに感謝する。世のためにがんばりたい。自分の一生は世のために使いたい」などがあった。

私は手紙が届くとは考えていなかったので、うれしかった。いずれも、私の言いたかったこと、訴えたかったことを的確にとらえ、自分のものにし、これから進む道への希望を書いてくれている。

私は返事を書くことにし、話を聞いてくれた一人一人に万年筆で名前を書き、学校に届けた。「子どもの時に多くのこと、人間の基礎となることを学ぶことが大事。多く学べばそれだけ遠くへ飛べる、行ける。心も豊かになれる」と書いた。そして「道」という松下幸之助の次の詞(うた)を添えた。私の孫よりもさらに若い世代の人との対話。希望が見えてくる。

自分には 与えられた道がある
広い時もある 狭い時もある
のぼりもあれば くだりもある
思案にあまる時もあろう
しかし 心を定め 希望をもって歩むならば 必ず道は開けてくる
深い喜びも そこから生まれてくる
(元瓜連町長)

日本の外科のルーツを探る 《くずかごの唄》122

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イラストは筆者

【コラム・奥井登美子】
盛岡恭彦先生への手紙

清へ「お元気ですか?」のおはがきいただき、ありがとうございました。彼は昨年4月、「ピンピンコロリバタンキュー。家で死にたい」という彼の望み通りの死に方で、宇宙のかなたに飛んで行ってしまいました。

93歳。先生方の手厚い医療のおかげで、痛い所もなく、個性を残しながら、うらやましいような最後でした。コロナのクラスターを恐れて、どなたにも通知せずに納骨など家族だけで行いました。

清の76歳の大動脈解離の時、近代外科の父・アンブロアズ・パレ400年祭の時、東京歴史散歩の時…。ずいぶんお世話になった先生に、ご通知が遅れてしまいましたのを、お許し下さい。

昨年の秋、五所駒瀧(ごしょこまがたき)神社(桜川市真壁町)へ紅葉を見に行ってきました。盛岡先生がパレの400年祭の時に記念に植えたヤマボウシの木も、2メートルの高さになって元気でした。宮司の桜井崇・まゆみさん夫妻もとても喜んでくださり、ヤマボウシの花は普通、白ですが、この木は特別、紅色の花が咲くことを教えてくださいました。

どちらが先に読むか、清とけんか

1991年、日本古来の手作り石灯籠を、フランスの外科医の本源を確立したパレの400年祭に合わせて、生誕地に送るために日本の伝統的な禊(みそ)ぎ行事を真壁の五所駒瀧神社で行いました。

『近代外科の父・パレ‐日本の外科のルーツを探る』(NHKブックス、1990年刊)の著者3人、佐野武先生(東京大学医学部)、大村敏郎先生(慶応義塾大学医学部)、盛岡恭彦先生(東京大学医学部)と、加賀美尚先生(埼玉医大)、奥井勝二(千葉大学医学部)、真壁町医師会の草間昇氏、仏大使館グルギェール氏、仏薬剤師会のテメム氏、石工の加藤征一氏。 画家の新居田郁夫氏、日仏薬学会事務長の奥井清。

今考えると、再現することができない人材。すごい個性の人たちが、かやぶき屋根の神社に集まって、1000年の伝統がある桜井崇さんの祝詞(のりと)を聞き、禊ぎをしたのでした。私にとっても、人生の大事な、いい思い出となりました。 先生の著書「医学の近代史・苦闘の道のりをたどる」(NHK出版)、「人は人をどう癒してきたか」(同)などなど。清と、どちらが先に読むかけんかしながら読み、そして今でも手元に置いて、時々広げて内容を味わっております。(随筆家)

運か才能か努力か《続・気軽にSOS》125

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【コラム・浅井和幸】2022年のイグノーベル賞で、最も成功するのは、そこそこの才能と大きな運が大切であるという論文がありました。それはさておき、全ての人は一生懸命に頑張って生きていると私は考えています。

ですが、一生懸命に頑張ってもうまくいかないことがあります。自分より豊かな人は何かずるいことをしているのではないか、ただ運がいいだけじゃないのか―と捉えてしまうこともあります。自分よりも豊かでない人には、自業自得だとか、努力が足りないからだ―と捉えてしまうこともあるようです。苦しいときは、このような考えが浮かび、やりきれなくなるものです。

私が代表理事をしている一般社団法人LANSという居住支援法人があります。「住宅確保要配慮者」の方々、つまり住まいが不安定な方々を様々な面で支援しています。

暴力からの避難。会社を辞めさせられ社員寮からの退居。住居取り壊しや火災。自己破産での自宅手放し。家賃の滞納。近隣住民とのトラブル。低所得者や障害者や高齢者。母子・父子家庭。ホームレスや車上生活者。刑余者などで住まいを見つけることが困難な方。

保証人がいない、天涯孤独で緊急連絡先になる人がいない、保証会社が通らない、初期費用が払えない―などで賃貸住宅の契約ができない方もいます。

そのような方には、不動産会社、福祉事業所、病院、自治体などと連携し、各種の制度を利用して、住まいのマッチングを考えます。中には、冷蔵庫や洗濯機などを所持していないし購入もできない、プロパンガス契約の保証金1万円が払えない―というような人もいます。

日用品を購入してまで寄付をいただく

そのような状況に理解のある方から、寄付を常時募集しています。昔、自分も貧乏で大変だったから、役立ててほしいと、寄付をいただくこともあります。捨てるに捨てられないで家に置いてある衣装ケース、昔使っていた布団が押し入れに眠っている―などです。

定期的に寄付をいただく方が言っていました。今、自分は不自由なく暮らしている。それなりに良い暮らしをしている。でもそれは運が良かっただけ。支援を受けることになっていたかもしれない。これからも分らない。

とても努力をされたであろうことは想像に難くない方です。ですが、客観的にご自身をそのように捉えられているのでしょう。日用品を購入してまで寄付をいただくこともあります。感謝に堪えません。自分もこのような気持ちを持っていたいと考えています。(精神保健福祉士)

つくば松代公園の雪景色 《ご近所スケッチ》2

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松代公園の雪

【コラム・川浪せつ子】つくば市には49もの公園があるとか。種類はいろいろで、松代公園(松代3丁目2)は、都市計画上「近郊公園」と言うそうです。つまり、近くに住む市民のための公園ということでしょうか。

公園のお隣は小学校です。斜め前には、児童館、幼稚園、保育所などがあり、子供たちのかわいい声が、いつも聞こえてきます。放課後や休日には、親たちも加わって集いの場所になります。

小さめですが池があり、自然のアカマツ林を生かした公園で、ガチョウ、ハクチョウ、シラサギなどが遊び、自然の宝庫でもあります。

四季折々の花々も素晴らしいです。春には、桜の花はもちろん、藤棚も2か所あり、豪華なしつらえです。夏には、心地よい日陰のベンチに座って、ポワ~ンと空や木々を眺めるのが好きです。紅葉の時期は、色付いた木々が心まで温かくしてくれます。

我が家の子供たちが小さいころには、この公園まで乳母車を押して。少し大きくなったら、一緒に自転車で。松代公園は、近くの住民しか知らないパワースポット?

松代公園の雪

「え~、これが、あの公園!」

この大好きな公園。雪の降った日にはどんな風景が見えるのか、訪ねてみました。家から1時間ほど歩き、雪の日の絵の取材。とても寒かったですが、素晴らしい雪景色にたくさん出合うことができました。

後日、公園の近くに住む友人に、この絵を見てもらったら、「え~、これが、あの公園!」と、ビックリしていました。

そうです、雪は、いつも見ている場所を変身させてしまうのですね。雪国の友だちは「雪とは、日々、戦いなんだよ」と言っていましたが、絵を描く者にとっては、天からのプレゼントです。雪国で大変な方々、ごめんなさい。(イラストレーター)

国連は誰のことも否定していないか 《電動車いすから見た景色》38

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2022年8月に国連ジュネーブ本部の前で介助者と

【コラム・川端舞】昨年9月、「国連が特別支援教育の中止を勧告した」と報道されたとき、特にインターネット上では様々な意見が聞かれた。特別支援学校を卒業した障害当事者や、今、特別支援学校で障害児ひとりひとりと向き合っている教員からすれば、自分の経験を否定されてしまったように感じたかもしれない。

しかし、改めて国連の勧告を読むと、「分離された特別支援教育を中止するために、国家政策などの中で障害児がインクル―シブ教育を受ける権利を認め、全ての障害児が、あらゆるレベルの教育において、必要な支援を受けられるように国家計画を採択すること」とある。

国連は今すぐに特別支援学校などを廃止することは求めておらず、どんな障害があってもインクルーシブ教育を受けられるようにするために、普通学校が障害児の入学を拒否できないようにするなど、普通学校のあり方を変えるように求めているのだ。

現在、特別支援学校でやられている障害児ひとりひとりに合わせた丁寧な指導を国連は否定しているわけではないと、私は思う。

特別支援学校の良さを教えて

私は特別支援学校に通った経験がないため、今の特別支援学校の良さを十分には理解できていないだろう。だから、特別支援学校の先生方や卒業生に、ぜひ特別支援学校の良さを教えてほしい。そして、今の普通学校をどう変えていけば、特別支援学校の良さを普通学校でも実現できるか、一緒に考えてほしい。これは、長年、特別支援学校を経験してきた障害当事者や先生方にしかできないことだ。

全く違う立場で経験してきたことを、お互いに共有し合うのは勇気のいることかもしれない。しかし、異なる経験や意見を持つ人同士がお互いを知っていくことで、どんな障害があっても、その子らしく居られる新しい普通学校の形が見えてくるのかもしれない。(障害当事者)

ふるさと納税の顛末記③《文京町便り》12

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土浦藩校・郁文館の門=同市文京町

【コラム・原田博夫】2008年5月にスタートしたふるさと納税制度の問題点は、返礼品騒動以外にも多々ある。たとえば、この制度を通じて寄附を受け入れる自治体と、住民が積極的に他の自治体へ寄附を行うために住民税額が当該自治体から流出する自治体間で、構造的な食い違い・アンバランスが生じている。

まず、2021年度のふるさと納税受入額の多い団体は、全国的には、1位・紋別市153億円、2位・都城市146億円、3位・根室市146億円、4位・白糠町125億円、5位・泉佐野市113億円で、受入件数では、1位・紋別市111万件、2位・泉佐野市89万件、3位・白糠町83万件、4位・根室市77万件、5位・都城市70万件である。

その結果、2022年度の市町村民税控除額の多い団体は、1位・横浜市230億円、2位・名古屋市143億円、3位・大阪市124億円、4位・川崎市103億円、5位・世田谷区84億円で、控除適用者では、1位・横浜市34万人、2位・大阪市21万人、3位・名古屋市19.6万人、4位・川崎市16万人、5位・札幌市12万人である。

茨城県内ではどうか。2021年度の受入額の多い団体は、1位・境町49億円、2位・守谷市35億円、3位・日立市26億円、4位・つくばみらい市17億円、5位・取手市9億円で、受入件数では、1位・境町29万件、2位・守谷市15.9万件、3位・土浦市5.6万件、4位・取手市4.7万件、5位・稲敷市4.2万件である。

その結果、2022年度市町村民税控除額の多い団体は、1位・つくば市10.6億円、2位・水戸市6.2億円、3位・守谷市3.3億円、4位・日立市2.7億円、5位・土浦市2.5億円で、控除適用者では、1位・つくば市2.1万人、2位・水戸市1.4万人、3位・日立市0.7万人、4位・守谷市0.7万人、5位・土浦市0.6万人である。

ふるさと納税がネット通販化

本コラム10(2022年11月27日掲載)で紹介したように、この制度が提案された当時は、地方出身で高所得のサラリーマンが多数居住している大都市部で、この制度を利用する人が多いのではないか、と想定された。その意味では、大都市部の地方自治体から、ふるさと納税の形で寄附額・住民税額が流出するのは想定通りだった。

しかし、受入側の上位団体の顔ぶれを見ると、受入額および件数が多い団体では、明らかに、魅力的な返礼品を取りそろえているケースが多い。その意味では、地元産品の発掘などの営業努力が、こうした結果に反映している側面もある。

一方で、住民税控除の状況(ふるさと納税の利用者が多数居住している自治体)を概観すると、どうも、その地方自治体あるいはそこの居住者が富裕かどうかよりも、むしろ、その地域の住民のウェブ利用の頻度の高さなどが、反映しているようである。

つまり、高所得の中高年齢層というよりは(彼らはしばしばウェブには疎い)、所得水準はそれほど高くなくてもデジタルフリーの壮年層あるいは子育て世代が隙間時間にスマホで検索・アクセスして、魅力的な返礼品をサーチしている様子がうかがえる。現行のふるさと納税がネット通販化している、との批判のゆえんである。(専修大学名誉教授)

世界の笑いものになっていた? つくば市政《吾妻カガミ》149

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取り止めになったつくばセンター広場のドーム型屋根(「2019年3月策定のつくばセンタービルあり方検討業務報告書」より引用)

【コラム・坂本栄】つくばセンタービルを設計した建築家・磯崎新氏が昨年末に亡くなりました。センター地区のホテル+音楽会堂+その間のビル+広場をセットで設計した著名人です。追悼文が全国紙に掲載され、代表作としてセンタービルが挙げられていました。もし、市が広場に2基のエスカレーターを設置、磯崎作品に「2筋の大傷」を付けていたら、つくば市は「世界から笑われるまち」になっていたでしょう。

磯崎建築の意匠を損ねる改修

磯崎氏設計の3建築と広場で構成されるセンタービルを改修する計画は、▽1階広場を覆う屋根を取り付ける、▽1階広場と2階広場を結ぶエスカレーターを2基設置する、▽センタービル内部を改装する―などがありました。

これに対し、磯崎氏のポストモダン建築の代表作であるセンタービルの中央広場をいじり、デザイン(意匠)を損ねるのはおかしいと、市の計画に反対する市民団体が組織され、市や議会に撤回を求める運動を起こしました。また、本サイトのコラムニスト・冠木新市さんも、映画の蘊蓄(うんちく)を傾け、市の計画を批判しました。

市民運動やつくば市・議会の対応を、本サイトが逐一報道。私も本コラムで、改修は名建築を傷付けるだけでなく、エスカレーターは機能面からも「いらない」と指摘。他メディアも強い関心を示したこともあり、市はエスカレーター設置を取り止めました(屋根は計画段階で取り下げ)。その経緯や市民運動の記事と関連コラムは、下記にリンクを張っておきました。

全国紙が本サイト報道を紹介

磯崎建築の価値については、同氏と親交があった批評家・浅田彰氏が朝日新聞(2023年1月5日朝刊)文化欄で、「この建築家=芸術家は83年には世界的にポストモダン建築のパラダイムとされるつくばセンタービルを生み出すことになる。その後の世界を股にかけての活躍は誰もが知る通りだ」と書いています。

また、NEWSつくばのセンタービル問題報道については、毎日新聞の青島顕記者が同紙(2022年12月26日朝刊)オピニオン・メディア欄で、「つくば市中心部の広場へのエスカレーター設置計画に対して、市民から『デザインの価値を損ねる』などと異議が出たことを報じ続けて、市に計画を撤回させるなど…」と紹介、本サイトの行政監視姿勢を取り上げてくれました。

もし、本サイトの記事とコラムがなかったならば、建築史に残るセンター広場には屋根(デザインを隠す構造物)が架けられ、エスカレーター(デザインを壊す構造物)が設置されていたでしょう。そして、名建築を毀損(きそん)したことで、つくば市の文化レベルが世界に知られ、市民は恥ずかしい思いをしたでしょう。(経済ジャーナリスト)

<参考>

センタービル問題の経緯がわかる主な記事

「…センタービル改修計画 屋根は取り止め」(2020年12月4日掲載

「エスカレーター設置をめぐり論戦…市議会」(2021年4月27日掲載

「エスカレーター取り止め…計画大幅見直し」(2021年12月17日掲載

改修に反対する市民運動を扱った主な記事

「エスカレーター設置見直しを…市民らが要望」(2021年6月1日掲載

「『…広場の形状維持を』 市民団体が再要望」(2021年9月3日掲載

「…保存すべき価値示す 市民団体が報告書…」(2021年10月1日掲載

冠木さんの主なセンタービル関連コラム

「…センタービルで『ダイ・ハード』」(2021年7月9日掲載

「『たたり』と『科学都市』」(2021年8月12日掲載

本欄筆者の主なセンタービル関連コラム

「つくば市議の施設観と文化センス」(2021年7月5日掲載

一年の計は初花火にあり《見上げてごらん!》10

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花束のような虹色のザラ星

【コラム・小泉裕司】新年を迎え、社会はギアチェンジしたかのように動き始めた。そこで、本コラムも昨年にも増して、「花火のまち土浦」から、打ち上げ花火の魅力をお伝えしていこう。というのが、今年の抱負なり。

さて、1月2日は、箱根駅伝をテレビ観戦しながら、酒浸りの怠惰な1日を過ごすのが、例年の「お楽しみ」だ。ところが今年は、車で遠出して花火を鑑賞するという、思い切った行動を選択した。なぜなら、昨年暮れに「モビリティリゾートもてぎ」(栃木県)の「New Year HANABI」のチケットを、ほぼ完売状態にもかかわらず、運良くレーシングスタンド最上段の席を入手することができたから。

サーキットを舞台に、音楽と融合した芸術性豊かな演出は「劇場型花火」と称され、夏と冬に開催する人気の花火大会。打ち上げは、土浦や大曲など競技大会において数々の受賞歴を持つ老舗「菊屋小幡花火店」(群馬県)。

オリオンまばたく澄んだ夜空に、2尺玉に尺玉、オリジナルのフレッシュグリーンや柿色の八方咲きに千輪花火、ハートやニコちゃんなどの型物、筒から吹き上がる虹色のザラ星(上の写真)など手の込んだ花火の数々を、上、中、低空に見事にコンビネーションしたプログラムは圧巻。

手を伸ばせば届きそうな、目線の高さできらめくスターマイン花火を堪能し、幸福感いっぱいで帰路に就いた。

本来、書き初めや初売りなど、正月の恒例行事は、2日に事始めとして行うと長続きするとされてきたようなので、この日の「初花火」で、今年も「With 花火」の日々が続きそうな予感。遅ればせながら、居間の壁一面に掛かる花火カレンダーに、年間の鑑賞予定を書き込もう。

あしたを生きるためのサプリ

昨年のある週末、水戸市内で野村花火工業が担当した20分ほどの小さな花火大会の直後、となりで観覧していた女性2人のほっこり会話。

「今日は無理につきあわせちゃって、ごめんね」

「うーんん、最高の週末になったね。来週もがんばれそーかも」

花火は、人生に必ずしも必要なものではないのかも知れないが、花火師は、見る人に元気や笑顔、希望を送り届けたいと、こん身の思いを込めて打ち上げる。まさに、あしたを生きるためのサプリメント。

今年もこんなすてきな「花火会話」が全国の花火会場で交わされることを願いながら、本日は、この辺で「打ち止めー」。「ドン ドーン!」。(花火鑑賞士、元土浦市副市長)

巡回指導より野犬捕獲こそ必要 《晴狗雨dog》7

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県動物指導センターに収容された犬たち(笠間市)

【コラム・鶴田真子美】茨城県では多くの野犬が捕獲されています。今日も野犬の子犬たちが県動物指導センターに収容されてきました。茨城県の狂犬病予防接種実施率は平均で62.9%です。畜犬登録率も同じくらいかと思われます。飼い犬でさえ、まだまだ管理がしきれていません。

なぜこのように多数の飼い主不明の犬が、茨城にはあふれているのか? 減らすにはどうすればよいのか? 人口密度、地形、住民意識にも左右されますが、自力で解決しようと努力する市町村(牛久市、守谷市、取手市、常総市など)と、対策が講じられていない市町村は、市町村別の犬収容頭数表にも表れています。

母犬を中心に保護を進めるのが野犬抑止の鍵です。昔から、犬は安産、多産と言われてきた通り、犬はひとはらで5~10匹も出産します。そのうち半数がメスとします。犬は半年で妊娠可能となります。1頭のメスから5頭のメスが産まれたら、次のシーズンには60頭に増えるのです。野犬の繁殖を抑えるには、メス犬を捕獲することが重要です。

県は2019年から保護指導課に任命職員2名を配し、野犬多発地域の放し飼い取り締まりを始め、それから4年が経ちます。しかし、その成果については疑問が残ります。開示請求した文書をみても、飼い主不在の家の巡回を繰り返すだけで、たまに、つなぐよう指導した、柵を直すよう指導した―と記載されているだけです。

巡回指導より、野犬捕獲こそが必要です。野犬多発地域の解決のために、早急に協議会開催が求められます。獣医師会、NPO法人、個人ボランティア、住民代表、市町村環境政策課職員をメンバーにして、野犬撲滅のワーキンググループを結成する必要があります。2015年、常総市が野犬140頭を皆生かして譲渡し、ゼロにした経験を踏まえ、同じことを自治体で一斉に行うのです。

犬の畜犬登録や狂犬病予防接種の実施は市町村の業務ですから、飼い犬に関する膨大なデータを市町村は保有しています。地域ごとに町内会や地区会があり、どこにどんな犬がいるか、野犬多発地帯の情報などは集約可能なはずです。

ワーキンググループで、チームごとに自治体を分担し、捕獲と順化を行うのです。そのための収容施設と医療、譲渡までのスタッフを揃えるために、目的を明確にしたふるさと納税制度を作ったらどうでしょう。県犬猫殺処分ゼロを目指す条例第10条には「犬猫の収容頭数を減らすため必要な施策について…協議会を組織し協議するものとする」と記載されています。

一昨年から、県には外国製捕獲機の購入を要望してきましたが、昨年、県は試みに輸入しました。野犬は、従来の鋼鉄のハクビシンやイノシシ用檻ではなかなか入りません。米国製の軽量組み立て式檻を用いれば、警戒心の強い犬も保護できます。(犬猫保護活動家)

マザー・テレサが教えてくれたこと 《遊民通信》56

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【コラム・田口哲郎】
前略

寒中お見舞い申し上げます。有名なカトリック修道女にマザー・テレサという人がいます。コルカタの聖女と呼ばれ、インドのコルカタ(カルカッタ)で死期が近い路上生活者たちへの保護活動など、弱者に寄り添う慈善活動を精力的に行いました。1997年に亡くなり、2016年に列聖されて、カトリック教会の聖人になりました。

わずか19年での列聖は異例の早さということが話題になりました。日本でも有名なイエズス会士の聖人フランシスコ・ザビエルは1552年に亡くなり、列聖されたのは1622年で、70年かかっています。通常、列聖には厳密な調査があり、何十年もの年月が費やされるとされているのです。

さて、そのマザー・テレサのドキュメンタリー映画を見たときのことです。マザーは人道的な活動をするために、コルカタの街に出かけていき、路上で生活している人々に会い、いたわり、やさしい言葉をかけ、必要な人に必要なことをしていました。

その誠実な活動に感動したのですが、一方でこう思う自分がいました。恥をしのんで正直に告白します。「マザーは路上の人を救っている。でも、ここにも苦しんでいる人間がいるのに。マザーは私のような者のところには来ないのか」

しばらくして、私は自分がとてもごう慢な思い違いをしていることに気づきました。私は路上生活者と自分が違う人間だと思っていたのです。彼らほど困窮していればマザーが手を差し伸べるけれども、自分のような者にマザーは無関心だろう、と。

これはまったくの間違いです。仮に路上生活者が苦しいのであれば、彼らと何も変わらず、私も苦しいのです。むしろ、彼らよりも狭いこころで生きている私はより苦しい。私こそ救いを求める者なのです。

無知の知のような無意識の競争意識

そして、もうひとつのことに気づきました。私は結局、現代日本という競争社会で生きていて、無意識に差別をして自己を保っているのだな、と。これも恥をしのんで告白すれば、私は先進国に住んでいて、ある程度快適な生活が送れていて、それにしがみついている。でも、そんな生活はまさに競争社会の産物で、それが自分の質を完全に保証することなどないのです。

もちろん、平和な社会で人間的な生活ができることには感謝しかないのですが、それは常に競争の結果です。学歴、職歴、収入、財産、健康など、この社会は競争し、他人との差別化という名の差別をすることを要求します。そういう社会で生まれ育つと、その過酷な渦にのみ込まれていることに気づかないのです。

実はここ20年ほど、人生が楽しくないです。それは私の責任なのです。でも、無知の知のような無意識の競争意識が、「いま、ここ」に満足することを邪魔する。「もっともっと」ばかりが頭をよぎるのです。ごきげんよう。

草々(散歩好きの文明批評家)

原発政策大転換 国は福島事故を忘れたのか 《邑から日本を見る》127

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古徳沼の白鳥とカメラマン=那珂市

【コラム・先﨑千尋】原子力規制委員会は先月21日、原発の60年を超える長期運転を可能にする安全規制の見直し案を了承した。運転開始30年後からは、10年以内ごとに設備の劣化状況を繰り返し確認することが柱。東京電力福島第1原発事故を教訓に定められた規制制度は大きく転換する。

それを追うように、政府はその翌日、グリーントランスフォーメーション(GX)実行会議で、再稼働の加速や次世代型原発への建て替え、古い原発の運転期間60年超への延長を盛り込んだ、脱炭素化に向けた基本方針を決定した。政府は、福島第1原発事故後、原発の依存度低減を掲げてきたが、ロシアのウクライナ侵略によるエネルギー危機などを口実に、これまでの政策を大きく転換し、新規建設・長期運転にかじを切った。

だが、脱炭素化への道筋は不確かで、核のゴミの行き先も見えない。原発の運転は「グリーン」の名にふさわしいのかという疑問を残したまま、原発回帰に突き進む姿に、福島や茨城の県民からは、あまりにも乱暴で拙速な政策転換だと批判の声が上がっている。

福島県には、今も7市町村に原則立ち入り禁止の帰還困難区域が残り、3万人近くが避難生活を続けている。第一、事故の時に出された緊急事態宣言はまだ解除されていないのだ。汚染水を海に流すという問題も、これからが本番だ。

原発は古くなるほど危険性が高まる

脱炭素の主力は、太陽光や風力などを活用した再生可能エネルギーのはずだ。岸田政権は安全保障政策の大転換に続き、原発政策も、国会での議論や国民への説明をせずに唐突に決めてしまっている。あの安倍政権や菅政権ですら、原発政策は抑制的な姿勢を持ち続けてきたのだ。

岸田首相は「電力需給逼迫(ひっぱく)という足元の危機克服」と言うが、東海原発、柏崎原発を見ても分かるように、両方とも再稼働の見通しは立っていない。順調にいったとしても、原発を再稼働させるのには時間がかかる。まして、新しい原発の建設となると10年以上もかかる。それが実現するかどうかも不安定だ。

原発は、古くなるほど安全面での危険性が高まる。長期間運転すると、放射線によって原子炉圧力容器がもろくなり、コンクリートやケーブルも劣化する。これまでに建設された原発は30~40年の運転を前提にしており、これまでに60年超運転の原発は世界に例がない。世界の原発の平均運転期間は28年余だそうだ。

しかも、わが国は地震や津波などの自然災害が多く、ウクライナで見られるような軍事攻撃の危険性も指摘されている。わが国をミサイルで狙うとすれば、東京や大阪などの大都市を標的とするよりも、原発を狙った方が被害ははるかに大きくなる。誰にでも分かることだ。

岸田さんは、こうした私たちの疑問についてどう考えているのか。それを説明してほしい。自分の権力を維持、高めるために、これまでと違うことを打ち出す。それは止めてくれ。(元瓜連町長)

行方市でコイを養殖《日本一の湖のほとりにある街の話》7

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行方市の理崎養魚場

【コラム・若田部哲】古来、霞ケ浦とかかわりの深い魚、鯉(コイ)。湖周辺の遺跡からは縄文の頃より食べられていた形跡が見つかっており、近年まで滋養に富む食べ物として、妊婦さんが出産後の肥立ちにあたり、体力回復のため食べていたそうです。現在でもこの霞ケ浦一帯は、食用養殖鯉の出荷量日本一の大産地となっています。

そんな中でも大拠点の一つが行方市の手賀地区。航空地図で一帯を見ると、水田とともに多数の養殖池が並び、独特の景観となっているのがわかります。今回は、手賀地区で35年にわたり鯉の養殖を営んできた、霞ケ浦北浦小割式養殖漁業協同組合代表の理崎茂男さんにお話を伺いました。

養殖の流れは3つの段階に分かれており、まず陸上の水田のような「陸(おか)いけす」で4~5カ月ほど稚魚を育て、その後、霞ケ浦の湖面内のいけす「網いけす」に移します。縦横各5メートルに区切られたいけすを多数並べたこの養殖方法は「小割(こわり)式」と呼ばれ、ここで十分大きくなるまで2~3年ほどかけて育てられます。

そして、最後の仕上げに、きれいな地下水が満たされた陸上の「締(しめ)いけす」に移し、内臓をきれいにし、身の旨味(うまみ)を引き出すのだそうです。

イラストは、締いけすから鯉を網ですくいあげ、大きさごとに選別して出荷用の車の水槽に移しているところですが、この手並みが実に鮮やか。鮮度を落とさないよう、長年の経験で素早く選別するさまは実に見事です。

冬は脂がのり煮つけが最適

さて、そんな鯉の出荷量日本一を誇る霞ケ浦ですが、2003年に養殖業を揺るがす一大事件が起こりました。それが鯉の病気「コイヘルペス」の流行。これにより、一時、鯉の生産は完全に停止し、廃業する生産者も現れました。

この苦境に対し、理崎さんはいけす内の鯉の過密を防ぎ、エサのやりすぎを避けるなどの対策を行い、長年の経験をもとに鯉の様子をよりこまめに確認し、常に元気な状態を保つことで乗り切ったそうです。

現在、取引としては活魚での出荷が多いそうですが、息子さんが手掛ける加工場「鯉丸水産」で、煮つけをはじめとする加工品も生産しているとのこと。また近年は、鯉を高級魚として重用する中国との取引も増えてきているそうです。

最後におすすめの食べ方をうかがうと、冬のこの季節は脂ものって煮つけに最適で、通年では洗いがおすすめとのこと。霞ケ浦大橋たもとの「道の駅たまつくり」ほか、近隣の道の駅などでの購入が可能です。霞ケ浦に古くから根差す豊かな味わいを、ぜひお楽しみください。(土浦市職員)

連載位置図7

①サイクリストの宿(2022年7月8日付)
②予科練平和記念館(8月11日付
③石岡のおまつり(9月8日付
④おみたまヨーグルト(10月6日付
⑤冷たくてもおいしい焼き芋(11月12日付
⑥阿見町のツムラ漢方記念館(12月9日付

【付記】本コラムは「周長」日本一の湖・霞ヶ浦周辺の、様々な魅力をお伝えするものです。

延命よりも生活の質が大事? 《ハチドリ暮らし》21

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散歩の途中でユリが咲いていました

【コラム・山口京子】今月で65歳になりました。先月には、介護保険被保険者証が届きました。第2号被保険者から第1号被保険者に切り替わり、保険料額も変わります。納付書は2月中旬頃に送られてくるようです。年金額が18万円以上であれば、原則年金から自動で差し引かれることになりますが、手続きには半年~1年かかると書いてありました。自分としては年金を繰り下げるので、納付書で振り込むことになりそうです。

今後引かれる社会保険料は、国民健康保険と介護保険の2つです。国民健康保険は75歳になると後期高齢者医療制度に移行し、介護保険料とともに死亡するまで差し引かれます。国民健康保険料も介護保険料も引き上げの方向性が打ち出されているので、自分の場合どうなるか確認することが大事です。

思った以上に両保険料が引かれるのではないでしょうか。高齢社会における医療や介護のあり方はどうなのか? どういう制度がふさわしいのか? 国や専門家の間でも様々な議論がされており、新聞や書籍などで読むことができます。

文明が不幸をもたらす?

ある新聞に、2021年の米国人の平均寿命が前年より短くなったという記事がありました。平均寿命が前年比で短くなるのは2年連続とのことです。新型コロナウイルス感染症、薬物の過剰摂取、自殺や殺人などの影響もあるようです。

『文明が不幸をもたらす 病んだ社会の起源』(クリストファー・ライアン著、河出書房新社)にも、米国人の平均寿命が短くなったことやその社会的背景について書かれていました。「医療制度が死にもの狂いで果てしなく延命することへの懸念」「異常な社会に対する忠実な順応は精神疾患の指標である」など、少し過激とも思える言葉に驚きました。

米国社会はどうなっているのか? 日本は米国を後追いしているといいますが、日本でも精神疾患などの人が増えているのではないでしょうか?

「延命よりも生活の質が大事である」という言葉を聞きます。追加して言うと、経済(お金)一辺倒ではなく、生活の質をすべての世代が向上させることが求められている、と感じるのですが…。人間そのものというか、私たちの暮らし全体が粗末にされているように思うのは私の勘違いでしょうか。

今、南直哉さんの書かれた『善の根拠』(講談社現代新書)という本を読んでいます。自分の人生をしっかりと自分が引き受けなさい、自分とは自己であり、他者であり、社会でもある、関係性の中で作られるものだ―としています。心して生きなさいと、諭された思いになりました。(消費生活アドバイザー)

3年ぶりの餅つきと新しいノート 《続・平熱日記》125

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イリコの絵を描く…

【コラム・斉藤裕之】年の瀬を感じるものは人それぞれ。クリスマス、大掃除、忘年会…。しかし私にとっては餅つき。今どきは十分においしい餅がスーパーで売っているし、わざわざ餅をつくこともなかろう。否、私の中ではその年を締めくくる大事な伝統行事。特に、昨年生まれた孫が物心つく頃までは是非とも続けていきたい私遺産。

それに、3年前に新調した餅つきの道具一式を、コロナのせいでこのまま使わず仕舞(しまい)にするのはどうにも癪(しゃく)だった。それから迎えるは兎(うさぎ)の年といえば、やはり餅つきだろう。そしてやっぱり杵(きね)つきの餅はおいしいし、餅はみんなを笑顔にする。

だから、3年ぶりに餅つきをすることは前から決めていた。しかし餅は1人ではつけない。餅つきは家族、友人との共同作業だ。

穏やかな晴天の下、総勢20人。朝から火を入れておいた竈(かまど)に乗せた蒸籠(せいろ)から湯気が立ってきたら、いよいよ餅つきの始まりだ。まずは杵で捏(こ)ねる。餅つきとは言うが、この捏ねる作業がほとんどで、つくのは最後の仕上げ程度。実はこの地味に見える捏ねの作業が体力を奪う。

やっと杵を振り下ろす頃には、想像以上に体力を消耗している。特に昔のケヤキの杵はすこぶる重い。そして時間とともに、杵を打ち下ろすよりも、臼から持ち上げるのが大変になってくる。加えて粘り始めた餅が杵に着くと、一層重く感じる。昔は4升餅をひとりでつき上げると、1人前の男として認められたとか。

しかし、そこはあまり無理がないように、大中小のサイズの中から体力に合った杵を選べるようにして、何人かでつくようにする。かくいう私は、大工仕事と薪(まき)割りで右手の肘を痛めているので、もち米を蒸しあげて臼に投入する係に徹するが、これはこれでシビアな役だ。

ワイワイガヤガヤ、丸めたり伸したり、汁やあんこを絡めて腹を満たしながら、餅はつき上がっていく。今年も色々あったけど、終わりよければ全てよし。昼までに30キロのもち米を無事につき上げた。

イリコの絵を描く、餅を焼く

ところで、年末にB5のリングノートを買った。B5でなくてはならないし、リングノートでなくてはいけない。もう20冊近くになるこのノートだが、その日にあったことや食事のことなどを記してある。絵や文章の下書きや日曜大工の寸法図、新聞の切り抜きなども貼る。

特に見返すこともない厚さ1センチほどのノート。ちょうど1年前、2022年1月1日から使い始めたノートが、計ったように大晦日(みそか)に最後のページを迎えたのだ。

明けて正月。古の遺跡よろしく南東に向いたアトリエの扉からは、元旦の朝に昇った陽が部屋を横切って、反対側の壁にまぶしいほどの光を放つ。薪ストーブに置いた餅の表面がパクっと割れて膨らんだ。口に含むと、ほのかに臼と杵のケヤキのサステーナボーな風味がする。

「2023年1月1日(晴れ)3時に起きる、イリコの絵を描く、餅を焼く…」。その日の終わりに、新しいノートの1ページ目に書き込んだ。(画家)

危険から遠ざかるという危険《続・気軽にSOS》124

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【コラム・浅井和幸】新年あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

何かと物騒なこのご時世。外に出かけても、場合によっては家の中にいても、危険なことが目白押しです。転ばぬ先のつえなんて言葉もありまして、大けがしないように前もって準備することが大切だよなんて言いますよね。

かといって、何事も行き過ぎはよくありません。けがをした後に装着するコルセットやサポーターなんかも、下手に使いすぎると筋力が落ちてしまうらしいですね。ましてや、けがをする前から体を支えるつえを使いすぎてしまうと、体がゆがむかもしれないし、筋力は落ちるかもしれませんね。

危ないからと刃物を持たせない、危ないから川遊びをしない、殺菌や滅菌をする、怒鳴るような場面には会わせないなども、度を越せば危険なことにつながります。人を傷つけたくないとか、自分が傷つきたくないとかへの対処も行き過ぎると、部屋で一人過ごし続けるということになります。いわゆる、ひきこもりという状態も起こりうることなのです。

塩や油が体に悪いと全く摂取しなければ、健康を害するものです。それと同じように、心理的なストレスはいけないものだと、ストレスを減らしすぎると不調が起こります。光や音などの刺激のない、ストレス(ストレッサー)がない状況が危険であるという結論の心理実験もあるようです。

苦手なことに適切に挑戦する

成長段階では、様々なことを習得するために苦手なことに適切に挑戦するのが大切なのは分かりやすいと思います。大人になってからの苦手なもの、怖いものに対処するにはどうすればよいでしょうか。

例えば、嫌な上司や仕事、緊張する人前での発表など、出来れば逃げたいけれど完全に逃げられない事柄には、どうすればよいでしょう。手が震えて呼吸も早くなり、想像しただけでも抑うつな気分になってしまうことに。

出来るだけ考えないというのも一つの方法ですが、行動療法の一つに暴露療法という技法があります。人は嫌な事柄から遠ざかれば遠ざかるほど、想像により不安や恐怖心が大きくなることがあります。なので、危険がない状況下で、むしろ嫌な事柄に近づいて安全を確かめていく方法です。

例えば、犬にかまれたことが原因で、犬や犬のほえる声が怖いとします。夜も眠れないぐらいで、明日、犬がいる家に訪問しなければいけないことを考えると、夜も眠れないような犬嫌い。安心できる人に横にいてもらって、10メートルのところまで犬に近づくとか、まずはカウンセリングルームで落ち着いた状態で犬の写真や動画を見ることから始めるなど、思ったより怖がる必要がないことを確認して、徐々に刺激を強くしていくのです。

毎日の生活の中で、自分自身が感じているほど、その恐怖や不安の対象は深刻なものではないことがほとんどです。全てを抱え込まずに、周りの信頼できる人に手伝ってもらって、昨日よりも少しだけ怖いものに近づいて、危険でないことを確かめてみてください。世界が少しだけ明るく見えるはずです。(精神保健福祉士)

新年の抱負の代わりに《ことばのおはなし》53

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冬の木立(筆者撮影)

【コラム・山口絹記】新年あけましておめでとうございます。 ということで、この時期になりますと、“新年の抱負”なんてことばを見聞きしますね。三が日の最終日に、この記事を外出先であわてて書いているような、いわゆる計画性が根本的に欠如している私からしてみれば、年単位の計画など絵空事なわけです。

今回は計画性のない私が、新年の抱負を述べる代わりにやっていることをご紹介したいと思います。よく見聞きするライフハック(仕事術)に、“何事もリスト化する”というものがございますね。ですがこのリスト、実現する前にだいたいどこかにいってしまうんです。こういったハイエンド(高性能)かつ整然とした暮らしというのは、計画性のない人間にとっては無縁なのでしょう。

そこで、私が代わりに提唱したいのが、紙とペンを持って喫茶店に行くこと。コーヒーでもジュースでもなんでもよいのですが、注文して飲み終わる前にやってみたいことを書き出しましょう。そして、店を出る前にその中から何か一つ選んで、その足で必要なものを買いに行くわけです。英会話の参考書でもよいですし、フルサイズの電子ピアノでもよいでしょう。

生活が崩壊しない範囲で清水の舞台からダイブするわけです。短絡的ですが、何と言われようと何も始めずにまた1年を過ごすよりは幾分かマシだと思うんですね。メモのなくなる暇を与えないというのがミソでございます。

大切なのは自分の直感を信じて速攻即決することと、へたにネット検索しないこと。まったく新しい物事に挑戦するにあたって、事前調査というものはほとんど役に立つことがありません。つまるところ、やってみなければ何もわかりません。

必要なのは、失敗する覚悟と勇気。そして転んでしまってもタダでは立ち上がらない気合です。精神論かよ、と言われてしまいそうなのですが、精神論なんですね。

セレンディピティ、プランド・ハプスタンス

このままですと、新年早々なんとも無責任なことばかり言い放っているだけになってしまうので、二つ、面白いことばを紹介しましょう。

一つはセレンディピティということばです。ざっくり説明すると、「何かを探している過程において、別の何か面白いものを発見してしまうこと」です。本屋さんでお目当ての本を探す途中でとんでもなく面白い本を見つけてしまう、みたいなものですね。

もう一つは、プランド・ハプスタンス(計画された偶発性)というものです。こちらはキャリア形成の中で「とりあえずで行動し続けていくなかで、『これは』と思えるものが見つかること」の大切さに関する理論です。

ソレっぽく横文字を並べてみたのですが、ようは「やってみようぜ」というおはなしなんですね。

自分の代わりに誰かが挑戦して、成功したり失敗したりといった経験談をいくらでも見聞きできる便利な世の中になっているわけですが、そうしてわかったのは、結局自分でやらなければ何もわからない、という端的な事実だったりするわけです。今からでも遅くはないので、喫茶店に向かってみてはいかがでしょう。(言語研究者)

県と市町村の連携による動物愛護《晴狗雨dog》6

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【コラム・鶴田真子美】迷子犬、徘徊(はいかい)犬、捨てられた子猫、野良犬が産んだ子犬たち。茨城県動物指導センター(笠間市)には多数の犬猫が、水戸市を除く全県から収容されてきます。市町村の窓口を経て回収されてくるもの、警察からの依頼によるもの、指導センターが依頼を受けて直接捕獲をした野犬など、様々です。

収容犬猫情報は、指導センターのホームページで毎日更新されています。収容のない日もありますが、1日の頭数が7頭になる日もあります。2022年3月の「飼い主死亡による犬18頭収容」や、7月の「飼い主逮捕勾留による犬42頭収容」など、多頭飼育崩壊が続けば、一気に頭数が増えます。12月には、犬だけで160頭を超えました。

指導センターでは、未去勢の犬たちが大部屋に詰め込まれ、小競り合い、餌の奪い合い、強い犬の弱い犬いじめなどが起こります。

2019年6月には、パルボウイルスによる伝染性疾患のまん延(21年5月24日付25日付)を理由に、指導センターが閉鎖されても、周辺市町村から犬猫が運び込まれました。指導センターに運べば引き取ってもらえる、という認識なのでしょうか。

「今、センターに入れてはダメですよ」

2022年夏、子猫の授乳室にパルボが出て、ワクチン未接種の子猫が命を落としました。そのときも、市町村は指導センターに子猫を運び込みました。私は、小美玉市の公用車に子猫を乗せて来た公務員さんを呼び止め、こう言いました。

「その子を、今、センターに入れてはダメですよ。パルボが出ているから、センターに入れると死んでしまいます。自分たちの町の動物は自分たちで解決する時代です。頑張る自治体は里親会を開き、飼い主に返還する努力をしていますよ」

公務員さんは、パルボが出ているのも知らされていませんでした。施設内での感染症の有無は、犬猫の命と健康を守るために重要な情報であるのに、県と市町村で共有されていなかったのは残念です。

県の動物愛護管理推進計画は、県と市町村の連携をうたっています。2019年の法改正では、市町村に動物愛護管理担当職員を置くよう努めることを求め、市町村による協議会設置や条例制定の際には、県は技術的な協力をすることになりました。動物行政は県だけではなく、市町村の取り組みも期待されています。(犬猫保護活動家)

➡鶴田真子美さんの過去のコラムはこちら

安全保障戦略の転換と新年度予算案 《雑記録》43

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【コラム・瀧田薫】昨年12月16日、政府は「国家安全保障戦略」を閣議決定し、同24日、防衛費の大幅増を含む来年度当初予算案を閣議決定した。これは戦後日本の安全保障政策の大転換であり、憲法9条に基づく「平和国家」と「専守防衛」の国是を揺るがすものだ。

記者会見で「唐突な決定ではないか」との質問に対して、岸田首相は「国家安全保障会議(NSC)や有識者会議で意見を聞いたし、与党のプロセスも経ているので、問題はない」と答えている。国民への説明は後回しということであろう。

さて、新聞各紙はどのように報じたろうか。社説を比較読みして、以下に見出しを列記してみた(「」内が見出し、・印が小見出し)。各紙の主張、その概略を把握できると思う。

▽茨城「信問うべき平和国家の進路」

▽毎日「国民的議論なき大転換」・揺らぐ専守防衛・緊張緩和する外交こそ

▽朝日「平和構築欠く力への傾斜」・反撃でも日米一体化・中国にどう向き合う・説明と同意なきまま

▽読売「国力を結集し防衛体制固めよ」・反撃能力で抑止効果を高めたい・硬直的な予算を改めた・サイバー対策が急務・将来の財源は決着せず

▽日経「防衛力強化の効率的実行と説明を」・戦後安保の歴史的転換・安定財源確保進めよ

▽産経「平和守る歴史的大転換・安定財源確保し抑止力高めよ」・行動した首相評価する・国民は改革の後押しを

国会熟議と国民説明が必要

茨城、毎日、朝日の3紙は批判的論調、読売、日経、産経の3紙は肯定的論調と、ほぼ予想通り。防衛予算についても同様の論調であった。意外だったのは、安保戦略の歴史的転換を扱っているにしては、各紙とも抑えた書き方をしている、そんな印象を受けたことだ。その分、今回は軍事や外交の専門家の発言が目立った。その中からいくつか拾い出してみよう。

香田洋二氏(元海上自衛隊自衛艦隊司令官)は、大幅増となった防衛予算について現場サイドによる検討がなされた形跡がないとし、予算の無駄は本当に必要な防衛力とトレードオフの関係にあるとして、予算の中身に深刻な懸念を表明している。(朝日、12月23日付)

田中均氏(元外務審議官)は、防衛予算の拡充も必要だが、それ以上に経済、技術、エネルギーなどの国力を強化すべきだといい、さらに外交とインテリジェンス(情報の収集と分析)の役割の大きさを強調した。

藤原帰一氏(東大名誉教授・国際政治論)は、新安保戦略の本質を「日米同盟のNATO化」であると喝破した。その上で、抑止力に頼るだけの対外政策は戦争のリスクを高めるとし、外交による緊張緩和の努力が欠かせないとした。岸田政権は抑止力強化には熱心だが、外交努力が足りず、そこが危ういと藤原氏はいう。

ともかく、安全保障について次の通常国会で熟議を重ね、国民に十分に説明しなければならない。国会議員自ら超党派で勉強会を開き、専門家の知恵を借りるなどすればと思うのだが、現状の国会では無理だろう。安全保障環境を整えるための最優先課題は、「この国の国会と国連それぞれの待ったなしの改革だ」と考える国民は少なくないはずである。(茨城キリスト教大学名誉教授)

お泊りは輪泊で 《ポタリング日記》11

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客室壁面には自転車のディプレイが可能

【コラム・入沢弘子】目が覚めたら、愛車BROMOTON(ブロンプトン)がこちらを向いている。窓をのぞくと、真下を通過する常磐線。そうでした、昨夜は、自転車と一緒の部屋で過ごせる、JR土浦駅の星野リゾートBEB5土浦に泊まったのでした。

2020年秋、「ハマる輪泊」をキャッチフレーズに開業した同ホテル。自転車を部屋に持ち込んで宿泊することが可能です。開業当初から興味があったのですが、近いだけに泊まる機会がありませんでした。今回は、全国旅行支援適用期間ということもあり、自転車でポタリングして宿泊することにしたのです。

つくば市の自宅からは7キロ。いつも使う慣れた道を通ること20分。土浦市立図書館で本を借り、自転車を押したまま、駅ビルのプレイアトレ土浦のカフェに行き、コーヒーを片手に数ページ読む、というところまでは日常的なこと。今日は、その後にホテルのロビーへ。非日常の始まりです。

チェックインカウンターでの手続き後は、自転車を押したまま部屋に入ります。早速、壁のサイクルラックに自転車をディスプレイ。間接照明だけを点灯し、暗闇に浮かび上がる愛車の姿を堪能します。

掛け時計はチェーンホイールを組み合わせたデザイン。棚に設置されている自転車関連の本や、つくば霞ケ浦りんりんロードのマップを参考のために眺めてみます。かすかに聞こえる列車の警報音。ロールスクリーンを上げると、ホームにいる人と目が合いビックリ。線路が近いことを感じない静かな部屋で、行き交う人や電車を眺めているうち、夜のとばりが降りてきました。

壁にディスプレイした自転車を眺める

空腹を感じロビーに向かいます。このホテルはルームサービスがありませんが、24時間、カウンターで飲み物とスナック類を販売しています。落ち着いた照明のロビーにはテーブルやこたつ、本棚に隠れるように配置されたソファなどがあり、ちょっとした隠れ家のよう。

パブリックスペースでくつろぐ

常陸野ネストビールと、土浦特産のレンコンを使用したスナックを注文。ワインを飲みながら、こたつでボードゲームに興じる女性グループ。ミキサー付き自転車をこいで、スムージーを作る家族連れ。この開放的でくつろいだ雰囲気は、グランピングのパブリックスペースに似ています。

部屋に戻り、今度はガラス張りの浴室でバスタブのお湯に浸りながら、壁にディスプレイした自転車を眺めます。明日はどこをポタリングしようか。この場所からは、つくば霞ケ浦りんりんロードで、霞ケ浦にも筑波山方面にも行くことが可能。常磐線で輪行した先を回るのもいいな。

でも、土浦市内の食べ歩きやお土産買い歩きも魅力的。あれこれ思いを巡らせ、ポタリング気分が盛り上がった一夜でした。(広報コンサルタント)

新年おめでとうございます 《吾妻カガミ》148

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【コラム・坂本栄】物騒な世の中になりました。戦争は政治の手段という古典的な考え方が大手を振って登場。また、軍事と経済が連動する時代になりました。戦後日本の政治・経済・軍事の常識は非常識になってしまったようです。/NPO法人「NEWSつくば」は昨年10月、発足から5年を迎えました。地域の有力法人の支援も得て、自らのサイトとニュース・プラットフォーム経由で地域情報を発信しています。

上のパラグラフは年賀ハガキからの転載です。スタートから6年目に入った本サイトを、今年もよろしくお願い申し上げます。以下、賀状を少し補足します。

政治の延長で戦争をする時代

戦争は政治の手段…は、ドイツの軍学者クラウゼヴィッツ(1780~1831)の名言「戦争とは異なる手段を持って継続される政治に他ならない」を言い換えたものです。ウクライナに対するプーチンさんの振る舞いを見て、彼の頭の中は19世紀の状態であることを痛感しました。私たちの戦争に対する否定的な考え方はナイーブに過ぎ、政治指導者は自分の都合で戦争を始めると考えておいた方がよいのかもしれません。

20世紀半ば以降、私たちは自由貿易の恩恵を受け、そのシステムを広げてきました。ところが、経済と軍事がセットになった強国を志向する習さんに、米欧日が敏感に反応、戦後の貿易システムは壊れつつあります。半導体など多くの商品が輸出入規制の対象になり、日本にとって好ましい国際経済のシステムは過去のものになりました。

この77年間、私たちの常識であったことが、崩れつつあるようです。私たちは20世紀前半に引き戻され、政治の延長上の戦争が常態化し、経済が窮屈な思いをする時代に突入したのでしょうか。

地域メディアの新モデル模索

NEWSつくばは、新しい地域メディアのモデルを模索してきました。税金で運営される自治体の監視、解決が求められる地域問題の提起、地域のイベントやそこで活躍する方々の紹介―などの記事は新聞と同じですが、既存メディアとの大きな違いは「ネットで発信する非営利法人」であるということです。

新聞・ラジオ・テレビなどのメディアは、購読(視聴)料や広告料などで運営されています。これに対しNEWSつくばは、個人や法人の小口支援、法人の大口支援によって運営されています。経費の多くは有力法人の支援でまかなわれており、現在、十数社の支援を得ています。地域メディアの必要性に理解がある、これら法人の識見に深く感謝しております。

昨年12月、紙メディア時代の終わりを示唆する事件がありました。県南で配布されてきた有力フリー・ペーパーが休刊になったことです。また、新聞やテレビは、紙や電波だけでなく、ネットを使った発信に経営資源を振り向けています。大観すると、メディアの主流はネットに移りつつあり、私たちの試みもその流れに沿ったものです。

冒頭、ニュース・プラットフォームに触れましたが、私たちは、Googleニュース、Yahoo!ニュースなどのプラットフォーム(大手発信サイト)に記事を提供しています。つくば・土浦地域のニュースを、できるだけ多くの方々に読んでもらいたいと思っているからです。伝達範囲に制約のある紙メディアに比べ、全国津々浦々に届くネットメディアは、この点、圧倒的に有利といえます。(経済ジャーナリスト、NEWSつくば理事長)