【コラム・斉藤裕之】新幹線の席は窓側派? 通路側派? 年を取ったせいかトイレに行くことを考えると、通路側の方が精神的にはよい。少し前まであった車内販売のお姉さんを呼び止めるのも、通路側にアドバンテージがあった。しかし、天気もいいのに発車と同時に早速日よけを下ろして眠りにつく方もいらっしゃるが、私は車窓に流れる景色を見るのが好きなので、あえて窓側の席を取ることもある。
今日は生まれ故郷山口県の徳山駅から茨城に戻る。ホームの目の前に広がる徳山港、コンビナートに別れを告げて、8時ののぞみ(人口十数万の地方都市にのぞみが停車する理由があるらしい)に乗る。あっという間に、広島、そして岡山、神戸、大阪。通過する駅や街ごとに、そこに住む友人知人の顔が浮かぶ。
京都駅のホームには相変わらず外国の観光客が多い。それから大津、琵琶湖辺りを過ぎると、私の好きな風景が現れる。それは、広がりのある大地と空の間に真っ白い雲が手の届きそうなところにぽかりぽかりと浮いている風景。恐らく地形のせいだろう。しばらくすると、これまた心引かれる伊吹山が見えてくる。この山の麓では大学の恩師が今も石を刻み続けておられる。
以前は旅の供といえば文庫本や週刊誌が定番だったけれども、今は新幹線にもWi-Fiがあるのでユーチューブで音楽を聴いてみる。「音楽は何を?」と聞かれていつも困るんだけど、それでも若かりし頃流行(はや)った曲など聞いていると、そのうちAIさんが見繕ってくれる曲が絶妙に車窓に車窓の景色とシンクロしていて、少しおセンチな気分にもなる。
それから、以前ならファン以外は目にすることのなかっただろうライブ映像やスタジオでの録音の様子なども流れてきて、これが結構よかったりして、自分が楽器などできないこともあって音楽のよさを再認識する。そういえば、友人のヒデちゃんとマサシさんのユニットがCDを作るというのでジャケットの絵を頼まれた。夏になる前のできごと。ある朝モノクロでササっと描いてみた。ふたりに見せたら気に入った様子だったので、原画を渡したのを思い出す。
リニア新幹線になったら?
今日、富士山は見えない。もう少ししたらトイレに行こうと思うが、隣の方が弁当を食べ始めてしまった。次に乗るときはやっぱり通路側だな。
今年で開業60年の新幹線。山陽新幹線が我が街を初めて走った日のことも覚えている。徳山から当初は6時間半かかったが、今は4時間半で東京に着く。スマホで映画や音楽、ゲームと、暇つぶしには事欠かなくなったものの、食堂車もなくなり弁当もお茶も売りに来ない。もはや席をくるりと回して向かい合わせにする光景も見なくなった。
と、品川に近づくが、品川ゲートウェイ駅ができたせいで線路わきのビル群が見えなくなってしまっていて、東京に帰って来た実感は薄れてしまった。やがて、ここはリニアの始発駅となるとか。リニアとはライン、つまり直線的という意味らしい。弁当食べる時間も車窓を眺める暇も、トイレに行くこともなさそうだ。(画家)